「ちゃんと書道を習ったわけじゃないから」と語る


「現役時代は自分のことだけを考えていればよかった。『世界ランキング100位以内に入る』という明確な目標があり、それだけしか考えていませんでした」

 1995年のウィンブルドンでは日本人男子として62年ぶりにベスト8に進出、同大会での通算7勝は錦織圭に抜かれるまで日本人最多勝利だった。名実ともに日本男子テニス界の頂点を極めたが、その道のりは決して平坦なものではなかった。

 慶應高校から、自らの決断でテニスの名門である福岡・柳川高校に転校。曾祖父に阪急グループの創始者・小林一三を持つ家柄から、東宝社長だった父・松岡功には「テニスなど辞めてしまえ」と反対された。

 ただ、テニスが好きだった松岡は、父の反対を押し切り単身渡米、日記を英語で書くなどして言葉の壁を乗り越え、プロを目指した。プロになってからも、両膝の半月板の損傷や左足首の靭帯断裂など、選手生命にかかわる大怪我に見舞われた。

「辛いことばかりでしたが、だから今の自分があるんです。何で俺ばっかり怪我するんだと、やり場のない絶望感に挫けそうになりましたが、このままでは前に進めないと気づいた。『痛めたこの膝でもできる自分だけのプレーがあるんじゃないか』と、考え方そのものを変えました」

 ポジティブ思考の代名詞と誰もが認める松岡だが、「本来は超ネガティブな人間なんです」という。

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