2年ほど前、とあるメジャーなメディアが調査したところ賃貸アパートやマンションのオーナーの7割が「高齢入居者に拒否感」という結果が出た。後期高齢者が賃貸アパートを探すのに何十件も拒否された、というようなエピソードも語られている。
あたり前である。賃貸アパートやマンションのオーナーの立場に立って考えると、貸した住戸内で入居者に孤独死をされたり、家賃が滞納になるリスクは背負いたくない。70歳の無職年金生活者と25歳の就労中単身者の両方から賃貸を申し込まれたら、誰しもが後者を選ぶはずだ。その方がリスクは少なそうに思えるからだ。
そういった背景もあり、いつしか「高齢になると賃貸住宅が借りられなくなる」というイメージが広がった。一面、それは真実である。東京なら山手線の内側やその周縁、大阪でも環状線や阪神や京阪エリアで賃貸住宅を運営するオーナーは、65歳を過ぎた単身年金生活者をわざわざ入居者にしなくても、もっと若くてリスクの少なそうな借り手が見つかる。だから、高齢単身者の賃貸申し込みは拒否するだろう。これは理の当然だ。
しかし、もっとマクロな視点で考えたい。全国的に賃貸住宅の空室率は2割前後だと言われている。中には「誰でもいいから家賃を払ってくれる人に入って欲しい」という賃貸オーナーは少なくないはずだ。
さらに言えば、住宅都市整備機構(UR)や、各自治体が運営母体となる住宅供給公社の賃貸住宅には慢性的に空室がある。これらへの入居には基本的に礼金や敷金を要しない。仲介手数料も不要。中には初月の家賃を無料にしてくれる物件もある。公的住宅には「65歳以上は入居不可」といった規則などありようがない。
つまり、マクロで見れば「家賃を払える収入」さえあれば、住むところがなくなるというのは「あり得ない」のである。
ではなぜ、「高齢者は賃貸住宅が借りられない」というイメージが蔓延しているのか。私は2つの条件が見過ごされているからだと考える。
(1)住む場所にこだわっている
(2)単純な経済力の不足
まず、高齢者は自分の生活基盤のある場所を変えたくない。家族や友人・知人が近くに住む場所から離れたがらないのである。馴染みの商業施設や医療機関も変えたくない。
すると「元に住んでいた場所から遠くない範囲」で住み替えようとする。そのエリアがたまさか山手線の内側とか中央線や田園都市線、東横線の沿線といった居住ニーズの強い場所だと、賃貸住宅のオーナーにとっては選択肢が豊富になる。「わざわざリスクの高い高齢者に住んでもらわなくても」ということになって、入居を拒否される。
次に、高齢者の場合は往々にして収入が少なくなる。「年金のみが収入源」となると、払える家賃には限りがある。当然、選択肢は狭まる。また賃貸住宅のオーナー側にも家賃滞納のリスクを避けようとする。
日本では二人以上の世帯の8割が持家だという統計データがある。単身の年金世帯は「貧困」と位置付けてよいだろう。つまり、高齢者の賃貸困難という現実は貧困問題の一分野だと言える。