「俺がジャーナリズム? っていう驚きはありました(笑)。でも、物事を詳しく調べて世の中に伝えることがジャーナリズムだっていうことであれば、これはこれで良かったのかなと」
本書の中核を成しているのは、芸人同士だからこそ聞き出せた赤裸々な本音の数々。芸人ならば誰でもテレビで何度も話しているような定番の自虐エピソードを持っているものだが、山田はそんな通り一遍の話は拒否して、ほかでは語られていない彼らの本音をえぐり出していった。
「せっかくお時間を頂いて取材させてもらっているんだから、ほかでこすり倒したネタを話してほしくなかったんです。あと、芸人同士だからこそ話せる心情の吐露みたいなものもあったと思います」
山田は一発屋芸人たちに正面から向き合い、鋭い観察眼と分析力で彼らの本質をあぶり出していく。ギター侍のキャラでブレークした波田陽区は、一念発起して活動の拠点を地元・山口に近い福岡に移した。山田はそんな彼の言葉の端々からにじみ出る「脇の甘さ」を鋭く指摘する。
〈「九州方面の営業が増えました。東京から芸人を呼ぶより交通費がかからないから有利なんです!」(そんな生々しいこと言わない方が……)〉〈「舐めて来たと思われないよう、ADさんにもちゃんと敬語で接してます!」(……前はタメ口やったん?)〉
同じ仲間として取材対象者に共感や同情を示したと思いきや、ときには客観視して冷たく突き放したりもする。取材する人間としての押し引きのバランスが絶妙なのだ。
「距離感はホンマに大事にせなあかんと思ってたんで。近づきすぎたら身内の感じになるし、離れすぎるのもおかしいし。まあ、波田陽区の場合はちょっと突き放しすぎたかもしれないですけどね(笑)」