『クリエイターズ・ファイル』のヒットによって、秋山は現実の商品とコラボする機会も多くなった。そのなかでも、サントリーのカクテル『のんある気分』とのコラボは濃度高め。秋山はCMディレクター・近松マサヲミになりきり、自らウェブ動画をプロデュース。嘘から出た実、本当にクリエイターになってしまったのだ。クリエイターとは元来プライド高い人種。クリエイターがいじられる『クリエイターズ・ファイル』に嫌悪した人もいるだろう。
しかし、圧倒的なものには逆らえない。世論が支持するのは本物よりも秋山、後者の動画の方が再生数を稼ぐ。虚が実に勝ることがある。面白いCMを作ることが仕事のクリエイター。『のんある気分』のウェブ動画では、その役目を秋山に譲るカタチとなった。CMディレクターの友人は「CM制作の会議において秋山の名前は頻繁に出るよ」と話す。
いじられる対象が首謀者を受け入れる、これと似たような出来事は1970年代にも起こっている。その時の主役はタモリ。当時、アングラ芸人と呼ばれていたタモリは永六輔、寺山修司、竹村健一といった文化人のモノマネを披露していた。形態とともに考え方も模写する思想模写といったスタイルは、モノマネ業界に新風を巻き起こした。
しかし、タモリも秋山同様にいじられた側からの歓迎を受ける。タモリの活躍の原点には、文化人からの寵愛があったのはよく知られた話。そして、現在のタモリは芸人というよりも文化人としての側面が強くなっている。卓越したモノマネ芸を持った人は、最終的に対象物になるのかも知れない。
奇しくも同じ福岡県出身のタモリと秋山、2人の芸の本質は近い。それは観察眼の鋭さと他人に完璧になれる辣腕。
タモリは多方面に才能を発揮した人に与えられる伊丹十三賞を受賞した。秋山も近いうちに、クリエイターを対象者とする業界向けの賞を獲得するだろう。業界人が揃うなかで、ニヤニヤした秋山が囲み取材を受けている様子が目に浮かんでくる。僕はそんな痛快な日が必ずくると思う。
ちなみに、クリエイターいじりの原点はなんといっても渡辺和博の『金魂巻』。『クリエイターズ・ファイル』が好きな方、これもオススメっすよ。