◆交渉が失敗しても「勝利」を宣伝する大統領

 今後の非核化に向けた交渉で目立った成果があがらない事は目に見えているのだが、スキャンダルまみれで、なおかつ外交面での成果が乏しいトランプ氏は、事実上、交渉が不調に終わったとしても、米国の有権者に向けて「成功!」と主張し、自らの政策の「正しさ」の宣伝を続けるだろう。

 米朝首脳会談では、朝鮮戦争時の行方不明米兵(MIA)の遺骨送還についても合意されているが、過去に北朝鮮は断続的に遺骨を返還しており、1996年7月には米朝合同の遺骨発掘が始まっている。

 つまり、MIAについては、わざわざ米朝首脳会談で合意する必要はないのだ。もしかしたら、MIAは他の合意内容が進展しなかった場合に、トランプ大統領が首脳会談の「成果」を宣伝するための「保険」だったのかもしれない。

 1992年1月に開始された米朝の二国間交渉は、少なくとも31回にわたり行われてきた。このほかにも6カ国協議があるのだが、結局、非核化が進まなかったばかりか、核兵器と大陸間弾道ミサイル(ICBM)を保有させてしまった。

 非核化が進展するかどうかは、ソン・キム駐フィリピン米大使の手腕にかかっているのだが、ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)の「核を含む大量破壊兵器の大半を1年以内に物理的に廃棄することができる」という発言に象徴されるように、現実の手順を直視しない人物が政権中枢に存在することは、交渉が前途多難であることを予感させる。

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