ポイントは、このナレーションが単なる物語の説明や進行役ではないことです。たとえ画面の「外」から語っていても、完全なる外部の人ではなく、家族の一員として、いわば内側の人として心理やストーリーの要点を語る。いわば、寄り添い型参加ナレーション。風吹さん自身もインタビューでこう語っています。
「生きている廉子の演技と、近いときもありますね。仙吉さんを見守るようなシーンなんかは、さもその場に廉子がいて話しかけるイメージだったり」(番組公式ホームページ)
まなざしは他人よりも近く、家族だからこそ欠点もそのまま受け入れる、温かで独特な距離感。声を張らず、抜いていく点もユニーク。ちょっと息がもれるような、抑え気味で引き気味の感じが新鮮。視聴者の心の中にすうっと入り込んでくる、その声。
ナレーションの名手として知られる元NHKアナ・加賀美幸子氏は「言葉は人」と語ったそうです。たしかにナレーションは“人となり”が滲み出るもの。
振り返れば、女優・風吹ジュンの人生は、特に前半は過酷でした。若くして上京し銀座のホステスとなり、結婚した名物プロデューサーは浮気、薬物使用を繰り返し離婚……と一筋縄ではいかない壮絶さ。人生の酸いも甘いも体験してきた風吹さん。様々な苦労は、演技の深みや味わいにつながっていったのでしょう。声を大きく張らず、「引く」ことによってさえ、その人となりが滲み出るような境地に達するには、人生修行もムダにはならないのかもしれません。
ナレーションによってドラマの雰囲気が変わるのは事実。今やドタバタコメディの様相となってきた『半分、青い』。風吹さんのナレーションが救いになるのかどうか。今後の展開に注目です。