「晴れているからと100円ショップで買った雨具を持って登山して、急な雨風を防げずに低体温症になってしまった患者さんもいます。山の天気が刻一刻と変化することの怖さを理解していない人が少なくありません」(油井氏)
総務省が2016年に行なった調査では、登山・ハイキングを楽しむ人のうち60代男性は約26%で、各年代・男女を通してもっとも割合が多い。
一方で深刻な状況が生まれつつある。今年6月、警察庁が発表した「平成29年における山岳遭難の概況」によると、この10年で山の遭難事故は1.58倍に増えており、うち60歳以上は51%。死者・行方不明者の数では約65%を占める。
60代からの登山には、若い頃とは違うリスクが山積している。
「山岳診療所の受診者は60代が圧倒的に多いです。初心者だけでなく、若い頃に登山をしていて再開したという経験者も意外に多い」
診療所の管理者で医師の齋藤三郎氏も、そう懸念を口にする。
槍ヶ岳診療所は、山での遭難事故が全国的に多発していた1950年、「遭難者や傷病者を助けたい」という同大山岳部部員の熱い想いから開設された。医師、看護師、医学生、補助員など総勢90名ほどのスタッフが3~5日ずつ交替で勤務している。
登山中に具合が悪くなった、転倒でケガをしたといった患者が多いが、時には滑落や雷に打たれた等、生命にかかわる事故もあり、一刻を争うケースでは、医師も救助隊と共に現場へ“往診”する。