評論家の加藤周一さんが日本人の最大の特徴は、「今、ここに生きる」ということを言っているんです。「過去は水に流す」という日本のことわざがありますよね。過去に縛られないという意味です。そうすることによって、今という時間を豊かにするわけです。また、「明日は明日の風が吹く」という“未来”のことわざもあります。要するに、縛られている時間からの解放なんです。

 この小説の主人公・カンヤダは、「今、ここに生きる」人だった。ぼくなんか、「今、ここに生きる」を体現するのに、いろいろ悪戦苦闘したわけです。それこそ、座禅に行ったりとか。カンヤダは、最初からそれを持っていた。だから、ぼくは、カンヤダに惹かれたんです。

 宮崎駿も同じです。宮さんとは40年の付き合いになりますが、思い出話をしたことはほとんどない。話す内容は、いつも「今、ここ」です。宮さんとカンヤダの共通項は、「今、ここに生きる」を本能的に体現しているということにあるのかもしれない。ぼくは、宮さんのこともうらやましく思っています。

 だから、この『南の国のカンヤダ』のいちばんのテーマは、「あなたは時間に縛られていませんか? そこから自分をちょっと解放してあげませんか?」なんです。タイムマシーンという人類憧れの乗り物があります。あれは自分を解放するための夢のような気がするんですよ。『南の国のカンヤダ』でいえば、執筆中にぼく自身がタイムマシーンに乗って旅をしたし、みなさんには読むことで、その旅をしてほしいと思っています。

◇8月5日(日)には、東京・渋谷の大盛堂書店で出版記念トークショー&サイン会が開かれる。詳細は、http://taiseido.co.jp/event20180805.html。

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