唯さんは、強い驚きとともに、心臓が内側から「どくっ」と鳴るのを感じました。
──まさか。どうして、C子が。ウソに決まっている。私のせい?
さまざまな感情が唯さんの心をざわつかせました。なぜなら唯さんとC子は、高校入学当初は仲のいい友人だったからです。
10代後半は、メイクやおしゃれに敏感になり、周囲の目が気になる年頃。唯さんも例外ではなく、髪のセットにメイクにと周りの女の子に釣り合うよう、身なりには気を使っていました。でもその一方で、のんびり屋のC子はいつまでたってもあか抜けない、地味なままでした。
唯さんは次第に、C子と一緒にいるのを恥ずかしく思うようになりました。露骨に無視したり、イベントに誘うのをやめたり、皆で撮った写真をSNSにアップする時も、C子だけカットして投稿しました。とても仲のいい友人だったのに、唯さんはC子を裏切ったのです。
C子はいつの間にか、自分からグループを外れていきました。2年生になってからはクラスが替わり、自然と疎遠になり、3年生になるとすれ違うこともほとんどなくなり、その頃には罪悪感も感じなくなっていました。
自殺の報を聞いた晩、唯さんは、母親との会話の中で、C子が自殺したのは昨日の夕方頃で、自宅マンションの上階から飛び降りたことを知りました。しかも、すぐに死には至らず、しばらくもがき苦しんで亡くなった、と…。
それを聞いた瞬間、全身に身の毛がよだつ感覚を覚えた唯さんは、手に持っていたスマホを咄嗟に床に投げ捨て、叫んでいました。
「あの時も今回も、何も告げずに自分から勝手に消えたのはC子。私は、悪くない!!」
投げ捨てられたスマホ画面には、昨日A子、B子と撮ったあの変顔のような顔写真。目玉はぎょっと上にひん剥き、顔は大きく歪み、何かを強く訴えているようでした。
そう。C子が自殺した時刻は、ちょうど3人が写真を撮り合っていた時だったのです。C子は死ぬ間際、どうしても唯さんに伝えたいことがあったのかもしれません。
──以来、唯さんは写真に写ることができなくなりました。それだけでなく、いつも近くに、C子の存在を感じるそうです。
特に、階段を上る時。自分ではない誰かが自分を操っているような、『早く上に行かなきゃ』という思いに駆られるといいます。
そして、こんな言葉も耳の奥に届くそうです。
〈お前も落ちて死ね〉
高校を卒業して数年たった今も、唯さんは階段を前にするといつも必ず、意に反した衝動を抑えられなくなるそうです。
※女性セブン2018年8月23・30日号