『ハスリンボーイ』は原作・草下シンヤ氏、漫画・本田優貴氏のコンビが描く
高田のようにクラブや繁華街で声をかけてスカウトをしたり、先輩後輩の関係で誘い込んだり、闇サイトで募集をかけることもある。働く理由は、遊ぶための金がほしい、刺激がほしい、裏社会に興味がある……。
一部の若者にしてみれば、犯罪で金を稼ぐことが、それぐらいのハードルの低さになり、表社会と裏社会の垣根が年々ボーダーレスになっていることは確かだ。
私が、小規模のキャバクラを貸し切って行なわれた半グレの誕生会に顔を出したときのことだ。日焼けサロンで肌を焼いた面々が多い中、色白で童顔の若者の姿があった。彼のことが気になって話しかけると、都内の大学に通う大学三年生だった。
「先輩にお世話になっていて、卒業したらこっちの道に進もうと思っています」
現在の新卒就活は空前の売り手市場である。わざわざ犯罪の道に進むリスクをとる必要などないはずだ。
「だけど、表の世界って全然面白くないじゃないですか。がんばったって先なんか見えてますし」
彼は淡々とした口ぶりで語った。彼はその場において最も下っ端の存在だったが、横の繋がりが強い半グレ組織ということもあり、小間使いのような動きはしていなかった。
彼にしてみれば、発展の見込めない表の企業よりも、一攫千金の夢を抱くことができる裏社会に魅せられたということなのだろう。
「こっちのほうが楽しいですし、俺はこっちでやっていきますよ」
私には、そう言い切る彼の将来が案じられてならなかった。
裏社会の住人は犯罪に加担する大学生のことをただの駒としか思っていない。しかし、その駒を有効に使うために、金であったり刺激であったり、さまざまな幻を見せ、彼らにやる気を出させようとする。
実際の裏社会は疲弊し、一部の者しか金を持っていない。今からその位置に立とうとしても、それは非常に難しい。若い頃の貴重な時間と労力を吸い上げられているだけなのだ。その現実に気づいた時に、彼は何を思うのだろうか。
【PROFILE】草下シンヤ/1978年、静岡県出身。豊富な人脈を活かした裏社会取材を得意とし、『実録ドラッグレポート』『裏のハローワーク』などの著作がある。現在「週刊ビッグコミックスピリッツ」にて『ハスリンボーイ』(原作担当/漫画・本田優貴氏)を連載中。第1話試し読み http://spi.tameshiyo.me/HUSTLINSPI01 Twitterアドレス https://twitter.com/kusakashinya