彼らに、もうひとつ尋ねた。

「○○ザ・タワーという名称のマンションもあるが、それはおかしくないか?」

 彼らの答えは、「その○○という地域にタワーがひとつしかないのならOK」ということだった。残念ながら、そのタワーマンションはエリア内で7つめか8つめの物件だった。英語的に考えると、明らかにヘン。私の危惧は見事に的中した。

 そもそも、日本人はなぜ「THE」を付けたがるのだろう。そのイギリス人たちはビールのブランドである「THE 〇〇〇」という商品名にも、ひどく違和感を抱くと言っていた。○○○という英単語は主に形容詞と使われる単語で、THEを冠するには相応しくないという。さらに、大量生産されるビールの名前にTHEを付けること自体がヘンだとか。

 日本人はTHEを付けると、そのもの自体がかっこよくなったように受け取る傾向がある。しかし英語のTHEには、その次に続く言葉をカッコよくしたり偉大なイメージを持たせる意味はほとんどないと私は理解している。強いて言うなら「ひとつしかない」という意味合いを持たせることではないか。

 ひとつしかないのに「ザ・パークハウス」はそれこそ日本中に何百とある。地名や他の言葉を続けるから「ただひとつの」という条件を辛うじてクリアしているが、そもそもTHEを冠したブランド名を設定すること自体、無理があると思える。

 同じようなものがいくつもあって、そのどれかを特定して言いたいときにTHEを使うのなら理解できる。しかし、多くの日本人はそうではなくてTHEが付いていればそれだけでちょっとカッコよくて特別なものだと感じてしまう。そういう空気にあわせてマンションブランドが生まれたのだろうが、それはそもそもの発想が誤っているのではないか。

 また、やたらと「パーク」を使いたがるのはどういうことか。今度はそのイギリス人に「パークホームズ」のイメージを聞くと、彼は「細長い公園に沿って小さな家がいくつも並んでいる感じかな」と答えてくれた。

 当然といえばそうだが、「パークホームズ」や「パークハウス」というと、必ず「パーク」があるはずだとイメージするそうだ。ただ、私はそうではないケースをたくさん知っている。庭がないのに「パーク……」。

「パークスクエア」もよく分からない。スクエアには公園の意味がある。言葉を逆にして「スクエアパーク」なら「四角い公園」となるはず。ああいうブランド名は、とにかく「パーク」さえ冠していればいい、という発想に思えてしまう。

 これら一連の「恥ずかしいネーミング」を見ていると、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」という、日本人の情けない行動様式を感じる。「他のみなさんもそうされています」という行動基準で、日本を代表する大企業がブランド名まで決めてしまっているのが、日本のマンション業界のお寒い現状なのだ。

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