最後は奉行の「小児は白き糸のごとし」という言葉に引っかけて綱五郎が「勝利は四郎吉、意図のごとし」と言ってサゲ。余計なことをせずしっかり登場人物を描いて、それが面白い。まさに「これぞ落語!」という一席だ。小痴楽の「落語の上手さ」を堪能させてもらった。
トリの宮治は『お化け長屋』。最初に来る男への古狸の杢兵衛の怪談噺は端正な口調で実に丁寧、それが2人目のときに落差として生きてくる。怖くなって帰ろうとする男に「今帰っては危ない……供養と思って聞いていきなさい」と引き止めるのも秀逸だ。
そして2人目の短気な男、これが圧倒的に面白い! 単なる乱暴者ではなく、理屈が通っていてお調子者という素敵な江戸っ子だ。杢兵衛に何度も「やり直せ!」と命じるやり取りに爆笑させられる。
この前半で切らず、長屋の連中を集めて幽霊騒ぎを起こす後半へ。雨を降らせたり「髪がサラサラ」とやったりするはずの半ちゃんが「小道具を全部忘れた」というバカバカしさは宮治ならでは。男が出て行き、整理をしているところに大家がやって来て、幽霊役の婆さんがぶら下がったままなのを見て驚く、というのがサゲ。後半も演じてテンションがまったく下がらないのは見事だ。
三者三様、素敵な夜だった。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2018年9月14日号