ライフ

認知症でさまよう母、GPS機器で見張ることに抵抗持つ介護者

認知症の親にGPS機器を持たせるべき?(写真/アフロ)

 父の急死で認知症の母(83才)の介護をすることとなったN記者(54才・女性)が、認知症介護の現実を明かす。

 * * *
「家族に迷惑をかけないため」を大義名分に散歩を日課にしている母。認知症になってからはよく迷子になるものの、勘なのか運なのか、必ず無事に帰って来る。だが、そろそろ心配だ。自由を守るか安全確保か、家族にとっては悩みどころだ。

 父がまだ元気だった7年前の初冬。両親のマンションを訪ねると、昼過ぎに散歩に出た母が夕暮れになっても帰って来ないということがあった。

「お金も持たずに出たのに、 こんなに遅くまで連絡がないなんておかしいでしょ!」と、父を責め、捜しに出かけた。外はもう暗く、いよいよ不安が募った。少し捜してダメなら警察だ…と、覚悟を決めると目の前にタクシーが止まり、なんと母が降りてきた。しかも運転手を従えて。

「あらNちゃん! ちょうどよかった。運転手さんにお金払っといてくれない?」

 運転手に事情を聞くと、交番の巡査に止められ、母を送ってほしいと頼まれたという。 マンションから駅前の交番まで起伏のある道のりを、母は3~4時間さまよい、しかし事故にも遭わず帰って来た。その機転と幸運に心底感心し、苦言を放つ気も失せた。

 母はその後、認知症と診断されたが、4年前、今のサ高住に転居してからも散歩はやめず、案の定、初めての街で何度も迷子になっている。ケアマネジャーからはGPS携帯電話を提案されたが、昔から機械が苦手な母は頑として拒否。仕方なく、サ高住の事務所と私の連絡先を書いた札をズボンベルトにくくりつけた。

 こんなアナログな方法は甚だ不安だったが、迷子先では札を見せて助けを求め、あるときは公衆電話から小銭で自らサ高住に電話をかけ、迎えに来てもらったこともある。

「道がわからなくなれば助けを求められる。徘徊じゃないですよ」と、ケアマネジャーは言ってくれる。

 幸運だが認知症は確かなのだ。次も同じように助かるとは限らない。それでも母は、

「歩いて鍛えないと、Nちゃんたちに迷惑かけるからね」 

 やる気満々の散歩の安全対策は、いまだ何もできず、母の帰巣本能任せのままだ。

◆GPS機器で母を見張るのには抵抗が…

 気ままに歩いて、いろいろな人や風景とすれ違うときの母は本当に生き生きしている。迷子になっても、不安に負けずに助けを求めてピンチを切り抜けるスリルが、母を奮起させているのではとも思う。

 そんな母にGPS機器を持たせることは、何かこっそり母を管理しているようで、実は私自身にも抵抗があった。でもある日、ケアマネジャーのこんな助言で、心が動いた。

「Mさん(母)の好奇心を陰から支えると考えてはどう? 外へ行こう、家族のために体を鍛えようという意欲は、高齢者には代えがたいもの。最近は靴などにも装着できる気軽なGPSもあるのよ」と。

 そうか。母の運頼みでは、私も常に不安を抱えたままだ。

 そして再び事件が起きた。用事で母のサ高住を訪ねると、間もなく暗くなるのにまだ散歩から帰って来ていなかった。胸騒ぎがして飛び出し、また住宅街をやみくもに捜しつつ、「どうしよう…警察? まずサ高住の事務所に電話だ!」と、焦って電話をかけると、「Mさんなら、さっきお帰りになって、今、食堂で夕飯食べてます~」と、のんきな声。

 事故に遭わないラッキーな強運は母に任せて、私のためにやっぱりGPS導入だ!

※女性セブン2018年9月27日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
芸能活動を再開することがわかった新井浩文(時事通信フォト)
「ウチも性格上ぱぁ~っと言いたいタイプ」俳優・新井浩文が激ヤセ乗り越えて“1日限定”の舞台復帰を選んだ背景
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
小説「ロリータ」からの引用か(Aでメイン、民主党資料より)
《女性たちの胸元、足、腰に書き込まれた文字の不気味…》10代少女らが被害を受けた闇深い人身売買事件で写真公開 米・心理学者が分析する“嫌悪される理由”とは
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン