片山:いたとしても組織の中でやっていけずにやめてしまうでしょう。城山三郎が描いた官僚像とは真逆の悪代官のような官僚が登場する作品はないのですか?
佐藤:江戸川乱歩賞を受賞した高柳芳夫ですかね。ろくでもない官僚がたくさん登場して面白い。
片山:名前は知っていますが、読んだことがなくて。どんな方なんですか?
佐藤:京大大学院を出て、ノンキャリアで外務省に入った人です。私が入省したころにはすでに辞めていたのですが「高柳の本は読むな」という回章がくるほど、外務省の内情を赤裸々に描いていた(苦笑)。
片山:外務省がそこまで言うなら、やはり実話が元なのでしょうね。
佐藤:高柳は在任中に作家デビューするのですが、外務省上層部の逆鱗に触れて左遷された。外務省にキレて書いたのが『影を裁く日』。欧州局長がホテルの日本庭園で殺されるのですが、犯人はうんこのなかに落っこちた大臣夫人の指輪を拾わされた事務官。その恨みで官僚たちに復讐するというミステリーです。
片山:政治家の夫人に仕える官僚が事件を起こす。森友問題にも通じそうなモチーフです。しかし、国家を背負う使命感に燃える官僚像よりリアリティがある。
【PROFILE】かたやま・もりひで/1963年生まれ。慶應大学法学部教授。思想史研究者。慶應大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。『未完のファシズム』で司馬遼太郎賞受賞。近著に『「五箇条の誓文」で解く日本史』。
【PROFILE】さとう・まさる/1960年生まれ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。主な著書に『国家の罠』『自壊する帝国』など。片山杜秀氏との本誌対談をまとめた『平成史』が発売中。
※SAPIO2018年9・10月号