アイドルとして世に出た男が“大スター”として頂点に立った。田原の成長は、間違いなくジャニーズ事務所の後輩への道しるべとなった。

 芸能人という側面だけにスポットを当てれば、栄光の歴史である。だが、その陰では睡眠時間を削って、新曲の歌詞や振付を覚えて毎日のように歌番組に出演し、ドラマの台詞を暗記して収録に臨むという過酷なスケジュールをこなしていた。そして何より、顔が知られることは、生きにくくなることでもあった。

◆「どこへ行っても顔を知られてる」

 田原がスター街道を走っていた1980年代は芸能マスコミ全盛時代だった。『FOCUS』『FRIDAY』などの写真週刊誌が相次ぎ創刊され、各テレビ局のワイドショーも独自取材を敢行し、芸能人を追い掛け続けた。その中で、田原俊彦は最もターゲットにされたうちの1人だった。

 年頃の男性として当然の行為であるデートをすれば、周囲から視線を浴び、マスコミに撮られ、自由はなかった。言い換えれば、普通の人間らしい生活はできなかったのである。

 どこにいても、見られるというストレスは味わったものにしかわからないだろう。『教師びんびん物語II』から2年後、30歳になった年に「アイドルという枠が辛くなったことは?」という質問に対して、こう回答している。

〈……たとえばね、どこへ行っても顔を知られてるという状況を窮屈に感じた時もある。でも、それって、仕方ないんですよ。アイドルには、それなりの役割があると思う。睡眠時間がとれなかったり、自由がなかったり、悪さできなかったり……(笑)。厳しい役割なんだけど、その時に“今に見てろよナンバー1は俺だ”って思いながら、枠をくぐり抜けてこないと、生き残れないんだ。その時与えられた役割を必死でやるしか、上へ登る道はないんだよね〉(『with』1991年9月号)

 見えない努力あってこその栄光であり、輝かしい芸能人生の代償として自由を奪われていたのだ。

 1994年2月14日、田原俊彦は待望の長女・可南子を授かった。その3日後の長女誕生記者会見がマスコミの不評を買い、直後のジャニーズ事務所独立もあってか、一気に逆風を浴びることとなる。それまで好感度の高かった男への世間の見方が、180度変化し始めた。

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