「もっと早くに、PSA検査を受けていれば、楽な治療で済んだかもしれません。一生の不覚です」
死亡リスクは他のがんより低いが、日常生活が不自由になる可能性もあるのだ。国が推奨するがん検診は、国立がん研究センター・検診研究部によって、事実上決められてきた。
2008年、前立腺がん検診ガイドラインの作成当時、米国とヨーロッパで前立腺がん検診の大規模な無作為比較研究が行われていた。
ガイドラインの作成委員会に参加していた泌尿器科医5人は、この二つの研究結果が出るまで判定を保留すべきと主張したが、国立がん研究センターの研究班長は拒否。泌尿器科医5人は、抗議のために委員を辞任する事態となった。PSA検査は推奨しない、という現在のガイドラインは、専門家の泌尿器科医が一人もいない状態で決定されたのである。
PSA検査によって、前立腺がんを早期発見した場合、不必要な治療がされる可能性があるのだろうか。
「積極的な治療をせずに、定期的にPSAの値を確認し、再生検する監視療法もあります。前立腺がんの進行度や年齢によって、手術、放射線、ホルモン療法などの選択肢を検討します。ホルモン療法の副作用は、勃起、性欲の機能がなくなり、筋力も大きく低下します」(前出・赤倉医師)
たとえ進行が遅いがんであっても、骨に転移しやすく、毎年1万人以上が命を落としていることも事実だ。
●取材・文/岩澤倫彦(ジャーナリスト)
※週刊ポスト2018年10月12・19日号