このように経団連加盟企業でも、フライングする企業が続出し、就活ルールが形骸化しているのが実態だ。就活ルールを遵守する企業では不満が高まり、その圧力が今回のルール廃止へ繋がったと言える。

 経営者からすれば、形骸化した就活ルールなどもはや不要、むしろ邪魔、ということなのかもしれないが、早くも現場の人事担当者からは悲鳴があがっている。マスコミ関連企業の人事担当者が語る。

「2015年卒までの新卒採用は『季節商売』でした。12月に始まり4~5月には内定を出して終わる感じです。6月以降は余裕があり人事戦略などを練ることもできた。でも今は、『通年商売』です。夏からインターンが始まり、秋には優秀なインターン学生と接触する、冬にもインターンをやり、3月から公式に選考スタートし、内定を出していき6~7月ごろに終わります。一年中採用を続けているわけで、もう“痛”年採用なんです」

 現場の声は悲痛である。予算と手間は増えたが、そのぶん優秀な人材を採用できているかと言えば、そうではないと言う。限られた人材を巡って競合他社も同じ手を打ってくるわけで、当然と言えば当然だ。

 そこへ追い打ちをかけるように、就活ルールが廃止される。これによって就活のスタート時期が完全に自由になってしまうと、「早い者勝ち」の状態となり、さらに早期化が進む結果、コストが増大する可能性が高いという。早くに内定を出せば、その後、内定者が入社するまでの期間が長くなり、その間のフォローに追加コストが発生するからだ。

 そんな背景もあり、日本経済新聞の調査でも人事の55.1%は今後も経団連が定める新卒一括採用のスケジュールが「必要」と答えている。一方で「不要」は29.5%である。この調査では、「必要」の理由として「学生の学業へ悪影響がある」が目立ったという。

 筆者はこの理由を否定しない。しかし人事のもうひとつの本音は、コスト削減にあるのではないか。ルール廃止で自由化となれば、間違いなく早期化に拍車がかかり、どれだけの予算、人員、時間がかかるか予想もつかないからだ。

【プロフィール】ふくしま・なおき/1966年長野県生まれ。就職コンサルタント。上智大学文学部卒業後、大手広告会社勤務を経て、93年より就職に関わる執筆、講演活動、学生の就職支援を行う。最新刊に『学歴フィルター』(小学館新書)がある。

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