また、そもそもQR決済が本格的に普及したら、日本の銀行はクレジットカードの手数料という最大の収入源を失ってしまう。預金を集めて企業や個人に貸し出す“本業”の「預貸業務」では全く儲かっていない彼らが、眠っていても手数料が入ってくる金城湯池のクレジットカード事業を脅かすQR決済の導入を本気で急ぐとは思えない。
だが、QR決済への移行自体は、さほど難しいことではない。もともとQRコードは1994年に日本の自動車部品メーカー・デンソーの開発部門(現在のデンソーウェーブ)が発明したもので、日本はテレビ番組でも使っているほど広く普及している国だから、それを決済手段として本格的に導入するかどうかは、関連業界が決断すればよいだけの話である。
しかし、メガバンクだけでなく、楽天やヤフーも自社内に銀行事業やクレジットカード事業を持っていて、少なからず金融庁の支配を受けている。このためQR決済サービスへの参入が遅れたことは否めないし、今後も本腰を入れて取り組むかどうかは疑問が残る。つまり、純粋な“QR決済派”は、既存のエスタブリッシュメントにはいないのだ。
中国の場合、アント・フィナンシャルやテンセントは失うものがなかったから、一気呵成にQR決済サービスを拡大して銀聯カードを凌駕することができた。日本でもQR決済革命というシー・チェンジの意味を深く理解し、金融庁の支配を受けることなく純粋にQR決済に賭けた企業が、群雄割拠の戦国時代を制するのではないだろうか。
※週刊ポスト2018年10月26日号