「これは自分の中でかなり頑張れた作品ですね。特に小川真由美さんと対峙するシーンは印象深いです。小川さんは物凄い迫力で来る方なので、僕も闘志が燃えました。その縁で演出家からは朝の連続テレビ小説『京、ふたり』など他の作品でも声をかけていただきました。
『武田信玄』を書かれた脚本家の田向正健先生は僕にとって忘れられない方です。その前に先生の書かれた『優しい時代』というNHKの九十分ドラマに出ていまして、これを四本くらいやりました。僕は檀ふみさんとのコンビで鹿児島の先生役でして。生徒の悩みを共有するヒューマニズムあふれるドラマで、とても思い出に残っています。
僕が最初にボロボロ泣いた映画は父親に連れられて観た『ビルマの竪琴』でした。それから『人間の條件』もオールナイトで観ました。ヒューマニズムある作品が好きで、ああいう人間像に憧れるんですよ。『優しい時代』の先生役は演じていて燃えるものがありました。
そういうことがあって先生に懇意にさせていただいていたので『武田信玄』も安心して演じることができました。作家が自分のことを知っているというのは演じる上でも大きいです」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
■撮影/渡辺利博
※週刊ポスト2018年10月26日号