考えられる主な理由は、下記の2つです。
1つ目の理由は、競争の激しいジャンルでの差別化。「〇〇しない主人公」の大半は、弁護士、医師、刑事関連であり、近年最も多くの連ドラが制作されているジャンルのため、企画を通す際には差別化が必要となります。
各局のスタッフが差別化のためにさまざまな切り口を考えた結果、たどり着いたのは「最大の強みや見せ場を捨てる」ことでした。加えて『リーガルV』は、『ドクターX』で一匹狼として巨大組織と戦ってきた米倉さんが、今度は「自らチームを作って巨大組織と戦う」という差別化の意味も見逃せません。視聴者にとっては、「弁護しない元弁護士」に加えて、「チームで戦う」というダブルの差別化があるため、新鮮な印象があるのです。
激しい競争による差別化は連ドラだけでなく、小説や漫画の世界でも同様。実際、『リーガルV』はオリジナルですが、『透明なゆりかご』『未解決の女』『貴族探偵』などは原作があり、原作者と連ドラスタッフの「差別化したい」という気持ちが一致したと言えます。
2つ目の理由は、主人公を視聴者の目線に近づけ、感情移入しやすくするため。「弁護する弁護士」「手術する外科医」のようなヒーロー型の主人公は、高いスキルを生かした問題解決が痛快ではあるものの、それほど感情移入できません。一方、「弁護しない元弁護士」「手術しないレジデント」は視聴者の目線に近い分、そのもどかしさや一生懸命さが伝わりやすいところがあります。
◆かつては『HERO』ような「〇〇する」が主流
たとえるなら、「弁護する弁護士」「手術する外科医」が北風で、「弁護しない元弁護士」「手術しないレジデント」は太陽。個人技の強さではなく、温かい姿勢と言葉で相手の心を動かす姿を見て、視聴者も心を動かされているのです。
敏腕弁護士やスーパードクターが主人公の作品は、「最後はスカッと解決してくれる」という安心感が最大の魅力。対して、そのスキルのない主人公の作品は、「大丈夫かな」「どうやって解決するんだろう……」とハラハラドキドキし、不安やピンチを自分事のように感じる傾向があるのです。
かつては、「検事なのに外出捜査する主人公」を描いた『HERO』(フジテレビ系)のような「〇〇なのに〇〇する主人公」が主流の時期もありましたが、しばらくは「〇〇なのに〇〇しない主人公」が続くかもしれません。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本超のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。