人口わずか6000人ほどの町に1回7000人、年間約30万人が押し寄せれば、一帯は間違いなく中国一色になる。恐怖心を抱いた町や住民が拒絶し、計画は頓挫したはずだった。

 ここに来て再度クルーザー計画が浮上した背景には、「国策」として観光客を招きたい国土交通省の思惑が見え隠れする。だが安全保障上は極めて危険な選択だ。中国ウォッチャーはこう警鐘を鳴らす。

「奄美大島が軍事戦略上の要衝であることを中国側は理解しており、陸自が強化されることにピリピリしている。この状況で7000人もの中国人観光客の寄港を許せば容易に工作員が潜り込める。島の周囲や海の深さを測量し、自衛隊の訓練や人員配置、勤務体制などを調査するはずだ。大勢の中国人客の上陸を大義名分にして、周辺の土地購入を進める怖れもある」

 すでに北海道や対馬では、中国や韓国からの観光客を大量に誘致して以降、建物はおろか山林や農地など広大な土地まで外国資本の手に渡り、“実効支配”される事例が後を絶たない。

 ひとたび外国資本が土地を買収すれば、後で国防上重要だからと言っても、日本の法律では買い戻すことが極めて困難である。こうした懸念を持つことに「考えすぎだ」との指摘もあるが、こと安全保障に関しては最悪のケースを想定すべきである。

 奄美という安全保障上の要衝が飲み込まれる前に、外国資本の土地買収を制限する法律の整備こそ、喫緊の課題だ。

【PROFILE】宮本雅史(みやもと・まさふみ)/1953年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、産経新聞社入社。社会部編集委員、那覇支局長などを経て現職。北海道や対馬など侵食される日本の現状を取材した『爆買いされる日本の領土』(角川新書)ほか著書多数。

※SAPIO2018年11・12月号

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