近年「(全体的な傾向として)和牛の味が落ちた」と言われることがある。その理由に、「24~25か月での早出しが増えたから」と言う人がいる。
基本的に牛肉は成体の方が味は濃厚になりやすい。成牛になるほど肉質は硬くなっていくが、味は乗る。肉質のやわらかい和牛でも長期肥育となればコラーゲン結合が強くなるが、熟成技術の進歩により、ある程度なら食感のコントロールもできるようになってきている。
だからこそレストランのシェフが注文時に「30か月以上」「ドライエイジング」というような指定をするわけだが、肉質×枝肉の重量で売価が決まる生産者にしてみれば、その差となる数か月分の飼料代や、疾病などで出荷できなくなるリスク、キャッシュフローも気にかかる。早出しを選択してしまうのも無理からぬことではある。
だが、現在流通している国産の牛肉が、食べ手が求めている味ではないとしたら……。そして本来のニーズに近い味を米国産牛が実現し、国内スーパーの店頭に並ぶとしたら……。
日本人がやわらかい肉を好むのは、主食である「米」のやわらかさが基準になっているという説がある。だがこの50年あまりで米の消費量は半減し、肉の消費量は10倍に増えた。スタンドステーキ店の店頭には行列ができ、塊肉やステーキをライスなしで日常的に食べる人も増えている。
嗜好が変化しつつある日本人の舌に、本気の米国産牛はどう響くのか。その時、日本人にとっての一大ブランド「和牛」はどうなるのか。「味」は生産物の価値を計る物差しではあるが、この話は食の安全や生産者の後継問題、さらには食料自給率など多岐に渡る課題を日本人に突きつけている。最終的に選択するのはほかでもない、われわれ消費者である。