「思えば、すみれが生まれる前日、『明日が出産予定日だよー』とお腹に語りかけたら、突然、破水したんです」(ゆきさん)
「だって、『生まれていいよ』ってことだと思ったから。ママの声、全部聞こえてて、お腹から出ようと思って蹴ったら、そうなっちゃった」(すみれちゃん)
「で、その場にいた助産師さんがあわてていたら、ピタッと陣痛が止まったんです」(ゆきさん)
「だって、そうしなきゃって思ったから。赤ちゃんってみんな、ママとかお腹の外の声は聞こえているし、わかっているはずだよ」(すみれちゃん)
なんとも不思議に聞こえるが、こうした現象は決してありえないことではないという。産婦人科医で池川クリニック院長の池川明さんが解説する。
「母親の胎内にいた時や出産時の記憶を胎内記憶といいます。欧米では1970年代から胎児や新生児の力とその時期の記憶に関する研究がなされており、私も20年ほど前から研究を始めました。これまで1000人超の母子への聞き取り調査を実施してきましたが、約3割の子供に胎内記憶があることがわかりました」
胎内記憶は言葉が話せるようになって間もない2~4才の子に圧倒的に多く、「暗くてあたたかかった」「水の中に浮かんでいた」などといったシンプルな記憶もあれば、かなり詳細な記憶もあったという。
「医学的には、味覚は妊娠12週、嗅覚は15~16週、聴覚は20週、痛みや温度といった皮膚の感覚は33週から胎児に備わるとされています。視覚の発達が最も遅く、生後8週間たってようやく、物の形や色の違いがわかるようになります。
胎内記憶に関する証言を聞くにつれ、私は確信しました。胎児は、私たちの感覚でいう“見る・聞く”で物事を判断しているのではなく、五感をフル稼働して感じ、脳でなく、細胞一つひとつに記憶しているのだと」(池川さん)
◆かみさまの言葉を今、伝えたい
すみれちゃんはその後、自らの力を少しでも役立てたいと思い立った。
「3年半くらい前、すみれから『ママ、伝えるときがきた。みんなに伝えたい…』と告白されたんです。私はすみれより人生の経験が少し長いぶん、世間の厳しさや怖さを知っています。だから、子供が『かみさまとお話できる』などと発言したときのリスクを考えると…」(ゆきさん)
「でもね、私は、人の前でペラペラとおしゃべりしたいんじゃないの。かみさまや、天使さん、見えないけれどいつも守ってくれている存在たち、それにあかちゃんやお腹の中のあかちゃんたちの言葉を伝えたいの。今、伝えなきゃダメだと思ったの」(すみれちゃん)
「それで私も決めました。たった1人でもいいから、すみれの話で癒されたり、元気になったり、生きる力がわく人がいたらいいな、と思うようになったんです」(ゆきさん)