「そんなこと、ステージで話していいの?」
ぼくは気を使って、その話題を制そうとしたが、「いいの、私は自由だから」とあっけらかんと言う。手紙をもらって付き合いはじめたが、今ではこの男性が心の安らぎだと話した。
認知症には、いろいろな思い込みがある。「認知症になったら、仕事はできない」「認知症になったら、人としてオシマイ」……。
たしかにできないことが増えるかもしれないが、できることも多い。山田さんは恋愛だってしている。すばらしいな、と思った。
厚生労働省のデータによると、65歳以上の高齢者3000万人のうち認知症は460万人、予備軍と考えられる人は380万人を占めると推測されている。今後、高齢者人口が増えるに伴って、認知症患者も増えていくだろう。
「認知症=不幸」とぼくたちはつい思ってしまうが、決してそうではない。認知症の人にも、認知症ではない人にも、できることとできないことがあるように、人生はまだらである。
そのことを、今、たくさんの認知症の人たちが声をあげ、顔を出して、ぼくたちに伝えようとしてくれている。そのことを大切に受け止め、これからの社会に活かしていかなければならない。
●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。著書に『人間の値打ち』『忖度バカ』など多数
※週刊ポスト2018年12月21日号