だが、ニーズに合わせて葬儀が安価・簡略化するほど、冒頭の川口さんや田中さんのようなトラブルも多発している。全国の消費者センターに寄せられた葬儀に関する相談は、2008年の425件から2017年には636件と増加。ピーク時は750件を超えた。
一見最適な葬儀形式に見えるが、そこには意外な落とし穴がありそうだ。「格安だから」「家族だけなら誰にも気を使わず済む」――そんな思い込みで安易に選べば、無用なトラブルを呼び込みかねないようだ。
◆「家族葬」は「一般葬」より高額になることも
「家族葬は斎場の規模が小さく、祭壇や供花も質素で、参列者も少ないから、一般葬より安いに違いない」――多くの人はそう考えているのではないだろうか。確かに料金だけを比較すれば安いが、最終的にかかるお金はそれほど違わない。
「小さな斎場を選べば会場費は安くなり、必然的に祭壇や供花も小規模になるため、安くなる要素はあります。しかし、それ以外の費用は実は一般葬とさほど変わりません」(佐々木さん)
言われてみれば、棺は一般葬と同様に必要だし、遺体を保存するドライアイスや霊柩車、火葬料もかかる。当然、僧侶へのお布施や戒名料も金額に大差はない。家族葬だからといって、それらが不要になったり、安くなるわけではない。
「各社の見積もりを見ると、30人くらいの家族葬の場合、80万~150万円の間が多く、一般葬は150万円からというケースが多い。そこに、お布施のほか、オプション(追加料金)を加えたりして、価格が上がっていきます。
料金だけ見れば家族葬の方が安いですが、多くの人が陥りがちなのが、家族葬は会葬者の数が少ないため、香典収入が見込めないということ。少し豪華な家族葬にしただけで、最終的に一般葬より高くつくこともよくあるのです。
香典収入の半分は『半返し』で無くなりますが、それでももう半分は葬儀費用に充てられます。トータルで見れば、一般葬が高いとは限りません」(佐々木さん)
しかも、格安をウリにする葬儀社のなかには、悪徳業者も潜んでいる。宗教学者で『0葬――あっさり死ぬ』(集英社)の著書がある島田裕巳さんが話す。
「葬儀社の中には、セット料金の形を取るところが多い。一般的には、祭壇や棺、霊柩車に人件費、ドライアイスなどを含めて『一式』と謳う葬儀社が多いですが、業者によっては、そのうちのどれかをこっそり『追加オプション』にしているところも見受けられます。
一式の金額のみを提示し、お得感を煽って受注し、葬儀が終わった後に追加料金として請求するのは常套手段なので要注意です」