武道館を見渡すと、観客の9割は女性が占めていた。推定60代や70代が中心であり、何十年もジュリーに寄り添ってきた長年のファンだと予測できる。
しかし、過去の思い出だけでは集客できない。今ツアーでは、ギターの柴山和彦と2人だけでステージに立っている。バンドを引き連れる公演よりも、自然とボーカルの声に焦点が当てられる。ボーカリストとして相当な力量と自信がなければ、決してできない芸当である。
派手な演出があるわけでもない。オーロラビジョンに姿が映し出されるわけでもない。ボーカルの声とギターの音だけに観客の神経が集中する舞台で、約1時間50分にわたって、70歳の沢田研二は1人で18曲を歌い切った。
1曲目はやや声が掠れ気味になる場面もあったが、歌うに連れて調子が上がっていく。最後に1970年代の大ヒット曲を披露した時、圧倒的な声量が響き渡り、武道館は9000人もの観客が集まっているとは思えないほどの静寂に包まれた。
3日連続公演の最終日のラスト曲で、観客の心を鷲掴みにする。この抜きん出たボーカル力こそ、沢田研二人気の理由ではないか。
普通の70歳であれば、カラオケで18曲連続歌えば喉がやられてしまうだろう。古稀にして、この声量を保つ秘訣は何か。
コンサート終盤、ジュリーが着替えを終え、スコットランド衣装のようなスカートで登場した直後のMCで一端が垣間見えた。
前日、観覧に訪れた知人に衣装を「可愛かったよ」と言われたと話した後、「可愛いはマズいよ。体型も体型だからな、いいジイさんという感じか。体型も可愛さのうちか」と自身の恰幅の良さについて語り始め、こう続けた。