スポーツ

悪童だった原口元気 教育係・槙野智章の褒めるスキルで更生

準決勝のイラン戦後も並んでサポーターに挨拶する原口と槙野(時事通信フォト)

 アジアカップを2大会ぶりに制するためには、MF原口元気の攻守にわたる献身的な動きが鍵になるのは論を俟たないところだ。前線から積極的にプレスをかけながら球際で勝ち、決定力も見せるその底知れない運動量は驚異的ですらあるが、原口のプレースタイルはかねてからそうであったわけではない。Jリーグ発足時からレッズをウォッチするライターの麻野篤氏が指摘する。

 * * *
 後半アディショナルタイム、ドリブルでペナルティエリアに侵入した原口元気が左足を振り抜くと、ダメ押しの3点目がゴールネットを揺らした。眼前のスタンドに歩み寄り、歓喜の日本サポーターを煽るように両手を振り上げる。原口らしい闘志あふれるアクションだったが、その表情はどこか柔らかで、心の余裕のようなものさえ感じさせた。

 浦和所属時代には、チーム内で数々のトラブルを引き起こし、“悪童”ともささやかれた原口元気は、そこにはもういなかった。

 2009年に17歳で浦和レッズユースからトップチームに昇格した原口は、順調にキャリアを積んでいった。当時のフォルカー・フィンケ監督の若手育成路線もあって徐々に出場機会を増やしていくと、2011年にはJリーグで9得点を記録、ナビスコカップではニューヒーロー賞も受賞している。

 この年、監督がゼリコ・ペトロビッチに交代。サイドでの1対1の仕掛けを好む指揮官と原口のドリブル志向が好相性を示したともいえるものだった。

 ところが、シーズン最終盤に事件が起きる。リーグ戦終了直後の12月10日のトレーニング後に、ユース時代からのチームメイトである1つ下の岡本拓也(現・湘南ベルマーレ)に左肩関節脱臼というケガを負わせてしまったのだ。

〈岡本拓也の悪ふざけをきっかけに原口元気ともみ合いとなり、コーチが制止に入ったが、離れ際、倒れた岡本に対し原口が蹴り、左肩関節脱臼のケガをしました。クラブは事実を確認し、原口、岡本も十分に反省しておりますが、原口に対して譴責と本日より一週間の謹慎処分にいたしました。岡本に対しても厳重注意をいたしました〉(オフィシャルHPより)

 チーム関係者やサポーターにも動揺が広がった。原口の好調ぶりとは裏腹に、この年のチームは序盤戦から低迷。シーズン途中に堀孝史監督への交代も経ながら、最終節になんとか残留が決まるという体たらくだったこともある。

 加えて、最終節では優勝に王手のかかった柏レイソルに完敗。ホーム埼玉スタジアムのピッチ上でシャーレを掲げられるという屈辱も味わった。そんなタイミングでの下部組織出身の期待の若手同士が引き起こした、あまりにも幼稚な出来事だったのである。

 原口本人も事の重大性を認識して、1週間後に自らの言葉で反省を表明している。そこには、岡本への謝罪やサポーター・チーム関係者に対して多くの反省の弁を述べるとともに、

「もっと謙虚な人間にならなければいけない」
「これまでは、どこか調子にのっている所があった」

 といった心情の吐露もなされていた。

 年が明けて2012年1月。一人の男がチームに加入した。槙野智章だ。槙野はすでに日本代表のキャリアも持ち、広島からドイツブンデスリーガの名門1.FCケルンを経ての移籍だった。その経験が見込まれたのか、槙野は浦和のスカウトから原口の教育係を頼まれたという。

 槙野いわく「サッカー選手としては最高の選手」の一方で、「礼儀やあいさつなどはビックリするくらいできなかった」という原口を辛抱強く指導。原口の言動には、徐々に変化がみられていったという。

関連キーワード

関連記事

トピックス

公金還流疑惑がさらに発覚(藤田文武・日本維新の会共同代表/時事通信フォト)
《新たな公金還流疑惑》「維新の会」大阪市議のデザイン会社に藤田文武・共同代表ら議員が総額984万円発注 藤田氏側は「適法だが今後は発注しない」と回答
週刊ポスト
“反日暴言ネット投稿”で注目を集める中国駐大阪総領事
「汚い首は斬ってやる」発言の中国総領事のSNS暴言癖 かつては民主化運動にも参加したリベラル派が40代でタカ派の戦狼外交官に転向 “柔軟な外交官”の評判も
週刊ポスト
立花孝志容疑者(左)と斎藤元彦・兵庫県知事(写真/共同通信社)
【N党党首・立花孝志容疑者が逮捕】斎藤元彦・兵庫県知事“2馬力選挙”の責任の行方は? PR会社は嫌疑不十分で不起訴 「県議会が追及に動くのは難しい」の見方も
週刊ポスト
黒島結菜(事務所HPより)
《いまだ続く朝ドラの影響》黒島結菜、3年ぶりドラマ復帰 苦境に立たされる今、求められる『ちむどんどん』のイメージ払拭と演技の課題 
NEWSポストセブン
公職上の不正行為および別の刑務所へ非合法の薬物を持ち込んだ罪で有罪評決を受けたイザベル・デール被告(23)(Facebookより)
「私だけを欲しがってるの知ってる」「ammaazzzeeeingggggg」英・囚人2名と“コッソリ関係”した美人刑務官(23)が有罪、監獄で繰り広げられた“愛憎劇”【全英がザワついた事件に決着】
NEWSポストセブン
NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の打ち上げに参加したベッキー
《ザックリ背面ジッパーつきドレス着用》ベッキー、大河ドラマの打ち上げに際立つ服装で参加して関係者と話し込む「充実した日々」
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
一般女性との不倫が報じられた中村芝翫
《芝翫と愛人の半同棲にモヤモヤ》中村橋之助、婚約発表のウラで周囲に相談していた「父の不倫状況」…関係者が明かした「現在」とは
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(共同通信/Instagramより)
《噂のパートナーNiki》この1年で変化していた山本由伸との“関係性”「今年は球場で彼女の姿を見なかった」プライバシー警戒を強めるきっかけになった出来事
NEWSポストセブン
デコピンを抱えて試合を観戦する真美子さん(時事通信フォト)
《真美子さんが“晴れ舞台”に選んだハイブラワンピ》大谷翔平、MVP受賞を見届けた“TPOわきまえファッション”【デコピンコーデが話題】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
NEWSポストセブン