ライフ

厄介な高齢者の流行性疾患、体の不調を伝えるのが困難に

自分の体の具合を察知しにくい高齢者(写真/アフロ)

 認知症の母(84才)を介護するN記者(55才)。高齢者は自分で自分の体の具合を察知しにくい。インフルエンザが猛威をふるう今、その問題を強く感じたという。

 * * *
「もしもしNちゃん、みんな元気? こっちも元気よ!」

 母から、機嫌のよい口調で電話がかかってきた。この年末年始に家族で雪の東北に出かけ、無事に帰京してから数日後のこと。雪国に比べれば東京は寒さも穏やかだが、なんと母は鼻声だ!

 風邪くらいでは学校も仕事も休ませてもらえなかった丈夫な家族の中で育った私も、年を重ねた母の些細な風邪の兆候には敏感になった。高齢者にとってはまさに“風邪は万病のもと”と、母のかかりつけ医や取材で話を伺う医師たちが声を揃えるからだ。

 しかもこの正月明けからインフルエンザが爆発的に大流行。東京都内では1月2週目に流行警報基準を超えたとのニュースが飛び込んできて警戒していたところだった。

「ママ、鼻声じゃない! 風邪ひいたの? せきは出る? のど痛くない? 熱は測った?」

 私は矢継ぎ早にまくしたてた。認知症の人にやってはいけないことだが、案の定、母は混乱。とにかく私に同調するようにオロオロ答えた。

「のど? イガイガする気がする。体温計? どこにあるかしら、ちょっと待って」と受話器を置いて、部屋の中を探し始めた。「しまった」と、私が思ったときにはもう遅い。

 電話の向こうでごそごそ探す音がして、しばらくすると母の鼻歌が始まり、トイレを開ける音がした。私と電話していたことは、もうすっかり忘れてしまったのだ。

「風邪か、もしかしたらインフルエンザかも」と考えた。

 インフルエンザワクチンは例年通り昨年秋に接種。でも、“絶対に感染しない保証はない”という事実が、不安を増幅する。市販薬も診断前に安易に使うのは怖い。もうこれは病院に連れて行くしかない。

 マスクやマフラーで少々大げさに防寒したが、外に出ると思いのほか寒く、母を連れ出したことが果たして正解だったのか、不安になってきた。

「なんで医者に行くの? バカは風邪ひかないのよ」と、母も電話のときとは打って変わって元気を強調し、空ジョークも飛ばしてくる。

 こんなときに限ってタクシーも拾えず、最近使い始めた配車アプリを使ってタクシーを呼んだ。母ののんきな様子とは裏腹に、どんどん大ごとになっていった。

 やっと到着したクリニックではなんと15人待ち! いかにも具合の悪そうな人たちが時々せき込みながら座っている。いよいよ後悔が募った。

 待つこと1時間。やっと順番が回ってきた。いつもの女医さんに迎えられ、問診されると、母はうれしそうに定期受診時と同じセリフを…。

「おかげさまで元気にしております。のど? 痛くないですよ。バカは風邪ひかないって笑われています(笑い)」

 ガックリきた。認知症も含めて母のことをよくわかってくれている先生は、ひと通り診察をして軽いのどの腫れを見つけ、炎症止めの薬を処方してくれた。そして、「Mさん(母)、風邪は怖いのよ。温かくして水分をしっかり摂ってくださいね」

 ああ、よかった…。

※女性セブン2019年2月21日号

関連記事

トピックス

麻薬取締法違反で逮捕された俳優の清水尋也容疑者(26)
【大麻のルールをプレゼンしていた】俳優・清水尋也容疑者が“3か月間の米ロス留学”で発表した“マリファナの法律”「本人はどこの国へ行ってもダメ」《麻薬取締法違反で逮捕》
NEWSポストセブン
賭博の胴元・ボウヤーが暴露本を出版していた
大谷翔平から26億円を掠めた違法胴元・ボウヤーが“暴露本”を出版していた!「日本でも売りたい」“大谷と水原一平の真実”の章に書かれた意外な内容
NEWSポストセブン
サントリー新浪剛史会長が辞任したことを発表した(X、時事通信フォト)
大麻成分疑いで“ガサ入れ”があったサントリー・新浪剛史元会長の超高級港区マンション「かつては最上階にカルロス・ゴーンさんも住んでいた」
NEWSポストセブン
清武英利氏がノンフィクション作品『記者は天国に行けない 反骨のジャーナリズム戦記』(文藝春秋刊)を上梓した
《出世や歳に負けるな。逃げずに書き続けよう》ノンフィクション作家・清武英利氏が語った「最後の独裁者を書いた理由」「僕は“鉱夫”でありたい」
NEWSポストセブン
ロコ・ソラーレ(時事通信フォト)
《メンバーの夫が顔面骨折の交通事故も》試練乗り越えてロコ・ソラーレがミラノ五輪日本代表決定戦に挑む、わずかなオフに過ごした「充実の夫婦時間」
NEWSポストセブン
サントリー新浪剛史会長が辞任したことを発表した(時事通信フォト)
《麻薬取締法違反の疑いでガサ入れ》サントリー新浪剛史会長「知人女性が送ってきた」「適法との認識で購入したサプリ」問題で辞任 “海外出張後にジム”多忙な中で追求していた筋肉
NEWSポストセブン
サークル活動にも精を出しているという悠仁さま(写真/共同通信社)
悠仁さまの筑波大キャンパスライフ、上級生の間では「顔がかっこいい」と話題に バドミントンサークル内で呼ばれる“あだ名”とは
週刊ポスト
『週刊ポスト』8月4日発売号で撮り下ろしグラビアに挑戦
渡邊渚さんが綴る“からっぽの夏休み”「SNSや世間のゴタゴタも全部がバカらしくなった」
NEWSポストセブン
米カリフォルニア州のバーバンク警察は連続“尻嗅ぎ犯”を逮捕した(TikTokより)
《書店で女性のお尻を嗅ぐ動画が拡散》“連続尻嗅ぎ犯” クラウダー容疑者の卑劣な犯行【日本でも社会問題“触らない痴漢”】
NEWSポストセブン
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《母が趣里のお腹に優しい眼差しを向けて》元キャンディーズ・伊藤蘭の“変わらぬ母の愛” 母のコンサートでは「不仲とか書かれてますけど、ウソです!(笑)」と宣言
NEWSポストセブン
寄り添って歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《お出かけスリーショット》小室眞子さんが赤ちゃんを抱えて“ママの顔”「五感を刺激するモンテッソーリ式ベビーグッズ」に育児の覚悟、夫婦で「成年式」を辞退
NEWSポストセブン
負担の多い二刀流を支える真美子さん
《水着の真美子さんと自宅プールで》大谷翔平を支える「家族の徹底サポート」、妻が愛娘のベビーカーを押して観戦…インタビューで語っていた「幸せを感じる瞬間」
NEWSポストセブン