2月25日、日本大使館前で白装束の人だかりができていた。その数は50人あまり。先頭に立ち「日本政府は問題を直視しろー!」とシュプレヒコールを上げていたのが、太平洋戦争犠牲者遺族会会長の粱順任(ヤン・スニム)氏だ。
太平洋戦争犠牲者遺族会は、崔事務局長の団体をはじめ現在はいくつかに枝分かれした遺族会の本家ともいえる組織。梁氏は「慰安婦問題」を報じた元朝日新聞記者・植村隆氏の義母で、韓国で1990年代から始まった戦後補償要求運動の草分け的な人物としても知られる。
デモの翌日、ソウル市内で梁氏に話を聞いた。日本に厳しい対応を迫ってきた彼女だが、今訴えているのは、意外にも日本以上に韓国国内の問題だった。
「被害者団体として長く活動をしてきましたが、高齢化など様々な理由で我々の声が届きにくくなってしまった。今では、活動の中心が左派・運動圏に移ってしまいました。このままでは韓日関係は悪くなると憂慮しています。いまこそ被害者の真の声を届けないといけないと考え、日本大使館前でデモを行ないました」
──デモでは天皇についても言及されていました。
「天皇を取り上げたのは平和の象徴としてです。まず、お互いが理解し合える対話を重ねることが大事なことなのです。そうすれば韓日の橋渡しをする平和の使者として、天皇が来韓できる道筋ができると思う」
梁氏が表情を曇らせたのは、民族問題研究所傘下で徴用工裁判支援の中心人物であるA氏について質問したときだった。A氏は現在韓国内で徴用工問題に尽力する“名士”として崇められている人物だ。