そして、現役生活は、彼一人の戦いではなかった。会見の終盤、妻・弓子さんと愛犬への感謝も口にした。「アメリカで3089本のヒットを打ったが、妻が握ったおにぎりの数が2800個くらい。(彼女は)3000個いきたかったみたい。そこは3000個握らせてあげたかったと思う。我が家の愛犬、現在17歳7カ月の一弓(イッキュウ)。さすがにおじいちゃんになってきて、毎日フラフラなんですが、その懸命に生きる姿を見ていたら頑張らないと本当に思いました。妻と一弓には感謝の思いしかない」。公の場でプライベートの話題を滅多に口にしなかったイチローが、独特の表現で感謝の意を述べた。
私は常々、野球の神様がいると思っている。イチローはその野球の神様に、最も近づいたに選手の一人だ。「カタカナのイチローってどうなるのか? 元イチローになるのかな。どうなんだろう? 何になるか……、監督は絶対に無理。これは絶対が付く。人望がない。本当に人望がない」と、笑わせた。
平成最後のメジャー開幕戦に、生まれ育った日本で、そのバットを置いたイチローは、「鈴木一朗」に戻る。これからは、「元イチロー」と呼ばれる彼が、新しい時代に、どんな形で野球にたずさわるのか、楽しみでならない。
【PROFILE】古内義明(ふるうち・よしあき)/立教大学法学部卒、同時に体育会野球部出身。1995年の野茂英雄以降、これまで二千試合を取材。著書に、『メジャーの流儀~イチローのヒット1本が615万円もする理由』(大和書房)など、これまで14冊のメジャー書籍を執筆。(株)マスターズスポーツマネジメント代表取締役、テレビやラジオで高校野球からメジャーリーグまで多角的に比較・分析。立教大学や早稲田大学エクステンションでは、「スポーツビジネス論~メジャーの1兆円ビジネス」の教鞭を執る。