「イルボンノムドゥル(日本の野郎ども)」
そんな言葉が男子児童の口を突いて出てきた。水曜集会は日本政府への抗議活動の場であるが、それでも「イルボンノム」を使うのは珍しい。韓国語の「イルボン」は「日本」の意味。「ノム」は同じく「奴」とか「野郎」と訳されることが多いが、もっと強い「畜生」に近いくらいの蔑称でもある。喧嘩するときなどは「イノム(この野郎)」と言って相手を威嚇する。
しかも手紙の朗読の間、通りすがりの人でも必ず一回はその言葉を耳にするほど、「イルボンノムドゥル」が散りばめてある。通りかかったビジネスマンの顔からは思わず笑みがこぼれていた。そして少年は続けた。
「ハルモニたちは日本軍からの性暴力に耐えてきました。それはかっこいいし、だからぼくも尊敬しています。ハルモニたちが日本の野郎どもから謝罪を受けるのは当然のことです」
通常、慰安婦問題で日本に対して謝罪を求める場合、その対象は日本政府とされる。だが、小学生が「日本政府」と「日本人」を区別するのは難しいだろう。彼の「イルボンノム」が指すのは、日本人一般と考えて良い。小学5年生から植民地時代の日本=悪とする“歴史教育”が始まるお国柄だけに、子どもがこうした文章を書いてしまうのは理解できなくもない。それでも、手紙の文面は恐らく引率の教師が事前にチェックしているはずだから、そうした蔑称に近い言葉遣いを許すのはいかがなものかと思う(日本政府が慰安婦問題で繰り返してきた謝罪と補償の「事実」が教えられていない現状こそ問題だが、ここではいったん横に措く)。
水曜集会の参加者の間では、慰安婦像のある通りは平和路と呼ばれている。だがそこでは、反日どころか、日本人を蔑視するような発言が平然と行われ、容認されている。どうやらそれが日本人へのヘイトスピーチになるとは誰一人として思っていないらしく、その声は、道路の反対側の日本大使館建設予定地だった空き地の、そのまた向こう側のオフィスビルまで届けとばかりに張り上げられていた。慰安婦像のある場所から背面が見えるガラス張りのオフィスビルには、日本大使館が移転・仮住まいしているのだ。