余談だが経験談をひとつ。

 過去に何度か、出身校である美大のネタを提供して欲しいとテレビ番組に頼まれた経験がある。ある時、スタッフから「ヌードデッサンって、お金が欲しい学生がクラスメイトから集金して、バイト感覚で脱ぐんですか?」と聞かれた。考えなくともわかる、今日日そんなことをすれば美大は大炎上する。ヌードファンディングなんてありえない。

 僕は「ヌードモデルは専門の事務所を通して呼ぶんですよ」と答えた。しかし、製作者からすれば刺激が足りなかったらしい。「本当に美大生は脱がないんですか?」と何度も聞いてくる。正しい情報を捻じ曲げようとする態度が気にくわない。誤った情報は僕の名前で発信される。スタッフはリスクを抱える人の気持ちを全く考えていない。

 僕はキツく言い返せたが、継続的な出演を望むタレントならばそうはいかない。無茶振りに応え続け、悪い意味で番組の駒となるタレントもいるハズ。そんな“付け焼き刃”なトークは、もう視聴者に見抜かれている。素人の一球入魂に負ける。

 しかし、天然物の素人のトークが光るのはオードリーの腕あってこそ。2人共に一流の雑談力を持っている。会話の上手さもさることながら、自分の話を聞いて欲しいと思わせる魅力がある。これは芸人ということよりも人として豊かな証拠だ。

 超売れっ子芸人のオードリーだがカリスマ性は薄い、どこか一般人に近い感覚を残している。親しみやすいイメージがあるため『オドぜひ』に出演する素人は、どこかで2人をなめている。「我々のこと下に見てるじゃないですか!」とツッコミつつ、春日と若林はどうでもいい話を楽しむ。そこに、そこはかとない大人の余裕を感じる。

 この番組は、いわばバー「オードリー」。2人はカウンターに居座る常連もテーブルに座る一見に対しても隔てなく対応していく。こんなバーに似合うのは、タレントの話芸より素人の本音だろう。

 ここまで『オドぜひ』の面白さを熱弁してきた。しかし、名古屋放送圏に住んでいない僕はフルサイズ版の視聴経験がほぼない。前述のアプリ『Chuun』で配信される最新のダイジェスト版、YouTubeチャンネルにアップロードされた過去のダイジェスト版を観てきた。それでも番組のファンを続けてこれた理由は、短い時間内にオードリーの魅力が映っていたからだろう。

 ひと昔前まで、ローカル放送を手軽に観られる機会はなかった。それこそ、ローカル放送に好きなタレントが出演した際は、放送地域に住む友人に録画をお願いしていた。ビデオを郵送してもらい、やっと観ることができる。しかし、現在では地方局が積極的にインターネットで番組展開。非放送地域でも楽しめる機会が増えた。出会える番組数も桁違いである。そのなかに『オドぜひ』もあった。

 オードリーの魅力を生かした番組が全国放送となることは喜ばしい。放送地域が拡大したからといって変わらないことを望んでいる、『オドぜひ』限ってありえないと思うが。過剰な演出がスタッフの手でされないように、と……祈っている。

●ヨシムラヒロム/1986年生まれ、東京出身。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。イラストレーター、コラムニスト、中野区観光大使。五反田のコワーキングスペースpaoで週一回開かれるイベント「微学校」の校長としても活動中。テレビっ子として育ち、ネットテレビっ子に成長した。著書に『美大生図鑑』(飛鳥新社)

関連記事

トピックス

高石あかりを撮り下ろし&インタビュー
『ばけばけ』ヒロイン・高石あかり・撮り下ろし&インタビュー 「2人がどう結ばれ、『うらめしい。けど、すばらしい日々』を歩いていくのか。最後まで見守っていただけたら嬉しいです!」
週刊ポスト
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《趣里と三山凌輝の子供にも言及》「アカチャンホンポに行きました…」伊藤蘭がディナーショーで明かした母娘の現在「私たち夫婦もよりしっかり」
NEWSポストセブン
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《恐怖のマッサージルームと隠しカメラ》10代少女らが性的虐待にあった“悪魔の館”、寝室の天井に設置されていた小さなカメラ【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
2025年、第27回参議委員議員選挙で使用した日本維新の会のポスター(時事通信フォト)
《本当に許せません》維新議員の”国保逃れ”疑惑で「日本維新の会」に広がる怒りの声「身を切る改革って自分たちの身じゃなかったってこと」
NEWSポストセブン
防犯カメラが捉えた緊迫の一幕とは──
《浜松・ガールズバー店員2人刺殺》「『お父さん、すみません』と泣いて土下座して…」被害者・竹内朋香さんの夫が振り返る“両手ナイフ男”の凶行からの壮絶な半年間
NEWSポストセブン
寮内の暴力事案は裁判沙汰に
《広陵高校暴力問題》いまだ校長、前監督からの謝罪はなく被害生徒の父は「同じような事件の再発」を危惧 第三者委の調査はこれからで学校側は「個別の質問には対応しない」と回答
NEWSポストセブン
ドジャース・山本由伸投手(TikTokより)
《好みのタイプは年上モデル》ドジャース・山本由伸の多忙なオフに…Nikiとの関係は終了も現在も続く“友人関係”
NEWSポストセブン
齋藤元彦・兵庫県知事と、名誉毀損罪で起訴された「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志被告(時事通信フォト)
NHK党・立花孝志被告「相次ぐ刑事告訴」でもまだまだ“信奉者”がいるのはなぜ…? 「この世の闇を照らしてくれる」との声も
NEWSポストセブン
ライブ配信アプリ「ふわっち」のライバー・“最上あい”こと佐藤愛里さん(Xより)、高野健一容疑者の卒アル写真
《高田馬場・女性ライバー刺殺》「僕も殺されるんじゃないかと…」最上あいさんの元婚約者が死を乗り越え“山手線1周配信”…推し活で横行する「闇投げ銭」に警鐘
NEWSポストセブン
親子4人死亡の3日後、”5人目の遺体”が別のマンションで発見された
《中堅ゼネコン勤務の“27歳交際相手”は牛刀で刺殺》「赤い軽自動車で出かけていた」親子4人死亡事件の母親がみせていた“不可解な行動” 「長男と口元がそっくりの美人なお母さん」
NEWSポストセブン
トランプ大統領もエスプタイン元被告との過去に親交があった1人(民主党より)
《電マ、ナースセットなど用途不明のグッズの数々》数千枚の写真が公開…10代女性らが被害に遭った“悪魔の館”で発見された数々の物品【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《ハワイで白黒ペアルック》「大谷翔平さんですか?」に真美子さんは“余裕の対応”…ファンが投稿した「ファミリーの仲睦まじい姿」
NEWSポストセブン