先日、『ゴッドタン』プロデューサー佐久間宣行がパーソナリティーを務める『オールナイトニッポン0(ZERO)』に『ロンドンハーツ』エグゼクティブプロデューサー加地倫三がゲスト出演していた。その中で「『ロンハー』ってのは結構、番組が変遷していくじゃないですか?」と聞かれた加地は「低視聴率で地獄を味わうと企画を変えていく」と答えていた。視聴者を笑わせるには、悪魔に魂を売らなければいけない瞬間もあるのだろう。しかし、貫かれるポリシーがある。
今となっては一般人をイジることはなくなったが、番組に色濃く残る露悪のイズム。その刃は切れ味を失うことはなく、AbemaTV版では若手芸人へと向けられた。
ここでドドンと「バラしていいよね15連発」で、最高にヒドかった若手芸人の秘密を発表したい。タレコミをされたのは奥村うどん(スタンダップコーギー)、タレコミをしたのは小宮浩信(三四郎)。淳が読み上げる。
「奥村はバツイチで、実は5歳の子供がいる!」、動揺し瞳が右往左往する奥村。盛り上がるスタジオ、「相方にも言ってないんですよ。1位すぎないですか? 僕だけ……」そんな言葉を最後に番組は終わった。他の暴露とは違い、今後の仕事にも支障が出るかもしれない圧倒的な1位! 面白い! 面白いんだけど、いやぁそれにしても酷い番組(絶賛)。
酷いといえば『アメトーーク!』も同様である。ケンドーコバヤシ筆頭に集まったのは五反田に居を構える芸人達。「AVサミット2019」と銘打たれ、大人のビデオについて熱い議論が交わされた。地上波では、芸人のトークに爆笑する女性観覧客が映ることが多い番組。しかし、AbemaTV版はテーマがテーマだけに無観客となっていた。しかしながら、「ここに混じって、自分も話したい!」と唸った男性視聴者は多いだろう。
9割がた偏愛を語るトークだったが、終盤に語られたケンコバの持論は刺さった。
「最近の若い子は無料の動画を探して観ている。もちろん、サンプル動画ならいいんだけど違法に本編をアップロードしているサイトも多いんですね。『君たちのやっていることは肥料を与えない畑を刈っているようなものだ!』と言いたいですね。稼げる世界にしないとキレイな子の裸は観られないですよ。だから、もっと値上げしていいと思ってるんです!」
テレビではふざけた姿しか観せないケンコバ、その真面目と評される彼の素顔を初めて知るのがAbemaTVだとは……。
話が前後して申し訳ないが、『ロンドンハーツ』でも似た発見があった。ツワモノが揃う地上波では全く話さない田村亮が、結構な数の発言をしていたのである。普段、過激な淳をマイルドにするためだけに存在する亮。AbemaTV版では年長者として若手芸人のトークをサポートしていた。
そんな事柄からネットテレビの意義が見えてきた。一見、ネットテレビの利点とは地上波と比較した際、過激な演出できる点にあると考えられている。しかし、今回のAbemaTV開局3周年記念を観て、それは表面にすぎないことに気づく。ネットテレビの本当の利点とは、過激さの先にある人の深みを映すことにある。地上波よりも本音に近いことを話せるため、人の素が漏れやすい。
また、AbemaTV版『ロンドンハーツ』からわかるように、地上波にはなかなか出演できない若手にとってチャンスの場でもある。製作陣は民放と同じ、ゆえに若手の活かし方をよく知っている。司会は有名タレントが陣取るため、若手が変に調子にのることはない。YouTuber的な終わりが見えない悪ノリを披露せず、正しきタレントとしてメディアで出演できる。
素の表情と若手の抜擢、この2つに長けた媒体が今のウェブテレビだと思う。
●ヨシムラヒロム/1986年生まれ、東京出身。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。イラストレーター、コラムニスト、中野区観光大使。五反田のコワーキングスペースpaoで週一回開かれるイベント「微学校」の校長としても活動中。テレビっ子として育ち、ネットテレビっ子に成長した。著書に『美大生図鑑』(飛鳥新社)