「言葉にも両義性があって、手放すも一見ネガティブな言葉ですが、娘のためには逆に賢明だったかもしれない。虐待や劣悪な労働環境から逃げるもそう。溶けた社会に対して、個人は何かを選び、手放すことで抗うしかなく、たとえ法的に正しくなかろうと一矢報いた人間の物語を、書きたいんです。

 僕もロスジェネの恨みを書いて一矢報いてはいるし、小説で世界を変えようなんていう大げさな発想は、もう古いと思う(笑い)。むしろ誰もが時代や社会に否応なくコミットしている双方向的な関係の中で、自分も社会の一角で何物かを成しているという過小評価でも過大評価でもない自覚の蓄積が、令和の時代を作っていくと思うんです」

 その前提すら与えられなかったブルーの短く哀しすぎる生涯を、おそらく平成を生きた誰もが断罪はできまい。

【プロフィール】はまなか・あき/1976年東京生まれ。東京学芸大学教育学部中退。2013年『ロスト・ケア』で第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を全選考委員絶賛のもと受賞し、作家デビュー。同作及び受賞後第一作『絶叫』は各ミステリーランキングで上位を獲得し、本年は『凍てつく太陽』で第21回大藪春彦賞と第72回日本推理作家協会賞をW受賞するなど、目下最注目の社会派の新鋭。著書は他に『コクーン』『政治的に正しい警察小説』等。165cm、60kg、A型。

構成■橋本紀子 撮影■国府田利光

※週刊ポスト2019年6月14日号

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