「本作も推理物ではありますが、当時14歳のブルーが青梅事件の現場にいたことは早々に読者に明かされていて、最後まで謎なのは『For Blue』の語り手くらい。『ロスト・ケア』の〈彼〉や本書の〈私〉にしろ、その呼称自体が謎を構造的に内包しているし、特に今回はこの私が誰かという謎で読者を牽引しつつ、自分なりの平成史を書くことに全力を注ぎました」(葉真中氏、以下「」内同)
昭和51年生まれの著者は団塊ジュニア世代にあたる。
「僕は中学生の時に昭和が終わった就職氷河期世代で、バブル絡みの恨みつらみは、当然ながらあります(笑い)。
もちろんどんな時代にも、その時代なりの悩みはありますが、生まれる時代や環境を選べない以上、全てを個人の資質や選択に還元するのは無理があると思うんです。例えば自己責任論も平成に入って注目された論点の一つですが、同じ人間がある環境では犯罪者、ある環境では善人になることは当然ありえて、人間を描くことと社会を描くことは僕にとって不可分でした」
事件は私立高校に勤める長女〈篠原春美〉が終業式を無断欠勤したことで発覚する。現場からは元教師の父親と母親、春美と5歳の息子〈優斗〉の4人が血塗(ちまみ)れで見つかり、死因は絞死。また浴室では次女〈夏希〉が合法麻薬の過剰摂取で突然死しており、室内にはヒット曲〈『世界に一つだけの花』〉が延々流れていた。
夏希はこの16年間、引きこもり状態にあったらしく、光GENJIのポスターや尾崎豊のCDが並ぶ部屋を、〈昭和で時間が止まった〉と評した者もいた。藤崎らは薬物の入手先や共犯者の線を探り、やがてブルーという少年の存在に辿りつくが、なぜか政府筋から圧力がかかり、捜査本部は解散。事件は被疑者死亡のまま、15年後に持ち越されるのだ。