スカイツリーにも近いアサヒビール本社(時事通信フォト)

──「スーパードライ」を引っさげての営業活動は絶好調だったのでは?

塩澤:売り上げは良かったのですが、営業部門では大きな問題を抱えました。「スーパードライ」が一気に売れたため、供給がまったく追いつかず、慢性的に商品が足りない状況に陥ったのです。

「社員は『スーパードライ』を飲んではならない。1瓶、1缶でも多く市場に回せ」という指令が出たほどです。しかしその程度で解決するはずもなく、多くの飲食店から「『スーパードライ』を扱いたい」と言われてもお応えできないケースが頻発しました。

 結果、アサヒビールと古くから付き合いがある贔屓の飲食店との間に溝が生まれてしまった。その関係を修復するため各地から若手の営業マンが吾妻橋支店に集められたのですが、私もそのメンバーの1人でした。

 営業に商品力は欠かせませんが、それだけでは足りない。お客様とのコミュニケーションの重要さを思い知った時期でした。

 ちなみに2年ほど前の調査では、3千数百人いる社員のうち、「スーパードライ」以前を知っている人は100人ほどしかいないようです。私が入社した頃はビールのシェアが10%を切るような状況でしたが、そういう辛い時代を知っている社員はもう少ないですね。

──その後は営業部門や経営企画などを担当しますが、社長就任前の2年間は「ミンティア」などを手がけるアサヒグループ食品の副社長を務めた。

塩澤:この2年間のおかげで、アサヒビール、ひいてはビール業界を客観的に見られるようになりました。

 そこで強く感じたのは、ビール業界の特殊性です。ビール業界は大手4社の狭い世界で争っている。ですから、あるメーカーが新商品を出してヒットすると、他社も同じような商品をぶつけて追随するという戦い方が中心になりがちです。

 しかし、食品業界では競合他社の新商品が当たっても、あまり後追いをしないんです。商品カテゴリーやアイテムがビールと違って多岐にわたるので、同じジャンルに後発商品を作っても、それに見合うだけのマーケットのボリュームがない。それなら違うジャンルで新商品を出そうという発想が強いわけです。

 企業間の戦いというのは、本来はそういう考え方が一般的であって、ビール業界のやり方ではどうしても消耗戦になってしまう。これから人口が減り、アルコールを飲む人の数も減少していく中で、目先の戦いはやはり気になるけれども、本当にやるべきは新しい価値を生み出すことではないかと考えています。

関連キーワード

関連記事

トピックス

上原多香子の近影が友人らのSNSで投稿されていた(写真は本人のSNSより)
《茶髪で缶ビールを片手に》42歳となった上原多香子、沖縄移住から3年“活動休止状態”の現在「事務所のHPから個人のプロフィールは消えて…」
NEWSポストセブン
ラオス語を学習される愛子さま(2025年11月10日、写真/宮内庁提供)
《愛子さまご愛用の「レトロ可愛い」文房具が爆売れ》お誕生日で“やわらかピンク”ペンをお持ちに…「売り切れで買えない!」にメーカーが回答「出荷数は通常月の約10倍」
NEWSポストセブン
王子から被害を受けたジュフリー氏、若き日のアンドルー王子(時事通信フォト)
《10代少女らが被害に遭った“悪魔の館”写真公開》トランプ政権を悩ませる「エプスタイン事件」という亡霊と“黒い手帳”
NEWSポストセブン
「性的欲求を抑えられなかった」などと供述している団体職員・林信彦容疑者(53)
《保育園で女児に性的暴行疑い》〈(園児から)電話番号付きのチョコレートをもらった〉林信彦容疑者(53)が過去にしていた”ある発言”
NEWSポストセブン
『見えない死神』を上梓した東えりかさん(撮影:野崎慧嗣)
〈あなたの夫は、余命数週間〉原発不明がんで夫を亡くした書評家・東えりかさんが直面した「原因がわからない病」との闘い
NEWSポストセブン
テレ朝本社(共同通信社)
《テレビ朝日本社から転落》規制線とブルーシートで覆われた現場…テレ朝社員は「屋上には天気予報コーナーのスタッフらがいた時間帯だった」
NEWSポストセブン
62歳の誕生日を迎えられた皇后雅子さま(2025年12月3日、写真/宮内庁提供)
《愛子さまのラオスご訪問に「感謝いたします」》皇后雅子さま、62歳に ”お気に入りカラー”ライトブルーのセットアップで天皇陛下とリンクコーデ
NEWSポストセブン
竹内結子さんと中村獅童
《竹内結子さんとの愛息が20歳に…》再婚の中村獅童が家族揃ってテレビに出演、明かしていた揺れる胸中 “子どもたちにゆくゆくは説明したい”との思い
NEWSポストセブン
日本初の女性総理である高市早苗首相(AFP=時事)
《初出馬では“ミニスカ禁止”》高市早苗首相、「女を武器にしている」「体を売っても選挙に出たいか」批判を受けてもこだわった“自分流の華やかファッション”
NEWSポストセブン
「一般企業のスカウトマン」もトライアウトを受ける選手たちに熱視線
《ソニー生命、プルデンシャル生命も》プロ野球トライアウト会場に駆けつけた「一般企業のスカウトマン」 “戦力外選手”に声をかける理由
週刊ポスト
前橋市議会で退職が認められ、報道陣の取材に応じる小川晶市長(時事通信フォト)
《前橋・ラブホ通い詰め問題》「これは小川晶前市長の遺言」市幹部男性X氏が停職6か月で依願退職へ、市長選へ向け自民に危機感「いまも想像以上に小川さん支持が強い」
NEWSポストセブン
割れた窓ガラス
「『ドン!』といきなり大きく速い揺れ」「3.11より怖かった」青森震度6強でドンキは休業・ツリー散乱・バリバリに割れたガラス…取材班が見た「現地のリアル」【青森県東方沖地震】
NEWSポストセブン