「永野と話すうちに非戦派であるはずの五十六が図らずも軍人の表情を露にして、内なる葛藤が透けて見える。後に近衛文麿から戦争になればどうなるかと問われ『1年や1年半は暴れてみせましょう』と返した逸話にも通じて、最も思い入れの深いシーンです。
彼はアメリカに通算5年ほどいて国力の差を目の当たりにしたことで、日米衝突は断固回避すべきだと確信をしていた。でも、外の世界を知らない人間は精神力でひょっとしたら勝てるかもと安易に考えてしまう。いかに当時の日本が情報に乏しく、分析を怠っていたかです。でもこの国は未だに情報に関して稚拙というか、これで国を守っていけるのかと不安に駆られます。日本はずっと同じ過ちを重ねているではないかと、作品を通じて問いかけたい」
今作では、役作りで俳優人生初の坊主頭に。「山本五十六を演じるなら喜んで。かっこよく刈ってもらってお気に入りです」。祖父は陸軍、父は海軍の軍医で自宅には軍刀があったという。
●たち・ひろし/1950年3月31日生まれ、愛知県出身。1976年、映画『暴力教室』でデビュー。『西部警察』や『あぶない刑事』シリーズなど話題作に出演して人気を博す。『終わった人』(2018年)でモントリオール世界映画祭ワールド・コンペティション部門の最優秀男優賞受賞。7月26日公開『アルキメデスの大戦』では山本五十六を演じる。
◆撮影/江森康之 取材・文/渡部美也
※週刊ポスト2019年8月2日号