高1の秋、演劇部で女役をやるために伸ばした髪を教頭に刈られた彼は、新聞配達で貯めた7万円のうち2万を母に残し、夜汽車で家出する。東京でゲイボーイになり、文次を買い戻すことだけを夢見てきた秀男は、隣の乗客にゲイバーは札幌にもあると聞き急遽途中下車し、すすきの屈指の人気店〈みや美〉の仕込みっ子になる。そこでも秀男は人に恵まれ、シャンソンを見事に歌いこなす自称25歳の歌姫〈マヤ〉は、公私に亘る生涯の師匠となった。
〈なんでこんなふうに生まれたんだろう〉と問う秀男に、〈神様が、仕上げを間違ったとしか言えないねえ〉とマヤは言った。〈だから、神様を許すのがあたしらの生きる道なんだよ〉と。
「私は麻紀さんのことをLGBTとか、平成の文脈では書きたくなかったし、男か女か以前に、麻紀さんは〈あたしの本物〉を生きている。秀男の演劇部の先輩が言うように〈見える範囲にいる人間を相手にしていない〉から、偏見を軽々と超えていけるんでしょうね。私自身、人間、こうも強くなれるんだっていう、生きることの答えみたいな勇気が湧いたし、秀男にとっても恋愛自体はさほど重要ではなく、自分の厄介な生を生ききることの方が大事なんです」
本書ではその後、マヤを頼って上京した秀男が芸を磨き、〈スネークストリップのマコ〉としてテレビ等で人気を博す大阪時代までを描く。現に蛇を使う踊りはカルーセル氏の代名詞だが、桜木氏はその蛇に、〈脱皮〉の度に新しい自分を手にしてきた生き様を重ねるのだ。