「天気の子」の劇中カット (C)2019「天気の子」製作委員会

──天気は人の心を前向きにも後ろ向きにもするし、時として牙をむく。そんな相手と私たちはどう向き合うべきだろう。

荒木:今は毎年のように集中豪雨などの災害が報じられます。ただ、どうしても視聴者は“テレビの向こう側の他人事”だと考えがちです。まずは災害を自分にも起こり得るものと考えて、いつ、自分の住む地域で発生しても対応できるよう備えておくことが大切です。日頃からハザードマップで危ない場所を確認し、避難経路や避難所を把握して、非常時に持ち出すものをチェックして備えておきたいですね。

新海:先ほどの観天望気も役に立つと思いますよ。

荒木:その通りです。空や雲を見て変化に気づいたら、気象レーダーで自分のいる地域に危ない雲が来てないかチェックしてほしい。そもそもみんな空の変化になかなか気づかないんですよ。だからいろんな雲が描かれているこの作品が、空を見上げるきっかけになるといいですね。

雲研究者の荒木健太郎さん

新海:ただぼくはふと思うのですが、日本はこれだけ災害が集中するような場所にあり、実際に地震や豪雨などが多発しているのに、ぼくたちはずっとここに住み続けていますよね。何だか不思議です。

 災害があっても住み続けるのは、「受け入れる」というある種の柔軟性かもしれないし、何かを諦めて、達観している気分を感じなくもない。

荒木:やっぱり自分が生まれた土地ですし、生まれた瞬間から四季のある日本に暮らしているからかもしれません。私の場合、ここで見られるいろいろな空や雲が大好きなんです。だからほかのところにはなかなかいけません。夏の夕立のあとには、美しい虹に出合うこともできますから。

新海:たとえば巨大な災害や異常気象が生じても、日本人は割とささっと日常を取り戻すことがありますよね。もちろん、そんな簡単にいかないこともあるでしょうが、その場所にずっと住み続けることが多いように感じます。ポジティブに考えれば、それがぼくたちの強靭さなのかもしれませんね。

大ヒットスタートを切った映画『天気の子』の新海誠監督

【Profile】
◆荒木健太郎(あらき・けんたろう)
1984年11月30日生まれ、34才。茨城県出身。雲研究者。気象庁気象研究所研究官。学術博士。慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校卒業。地方気象台で予報・観測業務に従事した後、現職。防災・減災に貢献することを目指して、豪雨・豪雪・竜巻などの激しい大気現象をもたらす雲の仕組み、雲の物理学の研究に取り組んでいる。著書に『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)、『雲を愛する技術』(光文社新書)、『世界でいちばん素敵な雲の教室』(三才ブックス)などがある。

◆新海誠(しんかい・まこと)
1973年2月9日生まれ、46才。長野県出身。2002年、監督・脚本・美術・編集などの制作作業をほぼ1人で行った短編アニメーション『ほしのこえ』で鮮烈なデビューを果たし、数々の賞を受賞した。その後もきめ細やかな映像美とセンチメンタルな脚本で観客の心を打つオリジナル作品を次々と発表。2016年に公開された『君の名は。』は記録的な大ヒットとなり、『千と千尋の神隠し』(2001年)に次ぐ邦画歴代2位の興行収入を記録した。

撮影/田中智久

※女性セブン2019年8月8日号

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