ほとんどの若手芸人は、社会人経験がない。高校卒業後、アルバイトをしながら芸人を目指す、という子がほとんどだった。なので、10代や20代の若手芸人に「スーツを着た大人に話しかけろ。人脈のあるマネージャーに自分を売りこめ」とアドバイスしても、彼らにはハードルが高く、実践することは難しいようだった。
吉本興業の会社のシステムは分からないが、私の経験上、芸人にとって現場マネージャー(タレントの収録現場につきそうマネージャー)とのコミュニケーションは取りやすく、テレビ局へ営業で動き回っている社員とは、会話をする機会が少ない印象だ。
現場にあまり顔を見せないベテランマネージャーが、若手芸人に気をかけていても、普段から接する機会が少なければ、距離ができてしまうのは仕方がないことだと思う。社長や会長なら、なおさら遠い存在だと感じるだろう。大きな会社であればあるほど、上と下が接する機会は少なくなり、距離ができるのは必然だ。
かといって、私は上の立場の人間が、全ての部下と仲良くするべきだとは思わない。上には上の仕事があるだろうし、偉い人を怖がる気持ちは、組織の序列を守ったり、気持ちが引き締まったりするかもしれないので、必ずしも、悪いこととは言い切れないと思う。
しかし、いつ、どこで、自分に対して気にかけているのか分からないような“距離がある”存在が「ファミリー」という言葉を使えば、違和感があるのは当然だ。
吉本興業の岡本社長が、実際にどのような口調で芸人や社員たちと接していたかは分からない。しかし、もし芸人との“距離”がある状態で「ファミリー」という言葉を使えば、芸人に不信感を抱かせてしまうのは仕方がないことだと私は思う。