ビジネス

軽自動車ウォーズ 売れまくるN-BOXを次々と脅かす「刺客」

軽自動車販売で5年連続トップの「N-BOX」(ホンダ)

軽自動車販売で5年連続トップの「N-BOX」(ホンダ)

 新車の国内販売台数は1990年前半のピーク時に比べて7割以下に落ち込んでいるが、価格や維持費の安さでシェアを伸ばしているのが軽自動車だ。特に近年、圧倒的な販売台数を誇っているのが、ホンダの「N-BOX」だ。2019年上半期も売れまくり、なんと5年連続トップを快走中だ。だが、そんな“軽の王者”を商品力で脅かすライバル車も続々登場している。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏が激戦の軽自動車市場をレポートする。

 * * *
 日本の乗用車販売の3分の1以上を占めるようになって久しい軽自動車。大半が国内で売られるという世界的広がりのなさが弱点としばしば言われるが、モデル数は普通車よりずっと少なく、その国内市場での1モデルあたりの平均販売台数は普通車を大きく上回る。

 軽自動車を巡るユーザー争奪戦も激しさを増すばかりだ。7月9日、軽首位のダイハツ工業が発表した新商品、第4世代の「タント」は、そんな競争の熾烈さの一端をうかがわせる力作だった。

ダイハツの新型「タント」

ダイハツの新型「タント」

 パワートレイン、車体、サスペンションなどをいっぺんに新造し、走行性能、燃費、乗り心地、静粛性を高めるといったハードウェアの作り込みはもちろん、それ以上に驚かされたのはクルマに対するユーザーボイスに応えることへの執念だった。

 その一例はファミリーユーザーからの要望が強いウォークスルーだ。後席に乗せた子供の世話をするための移動は基本的にクルマを降りれば済む話ではあるのだが、駐車場が狭い、雨が降っている、クルマの外を蚊がたくさん飛んでいる等々、クルマを降りずに済ませたいシーンは意外に多い。が、軽自動車は車幅が狭いため、左右席間のウォークスルーはできても前後席間の移動は難しい。

 タントの開発陣は、停車時に前席を後席近くまでスライドさせるシートレールを敷設すれば助手席との間にウォークスルーのスペースを作ることができると考え、それを実現させた。

 エンジニアによれば、普段からそうすればいいんじゃないかというアイデアを持っていたが、従来型の車体では構造上それができなかった。ちょうど車体を新設計する機会に恵まれたため、長大なフロントシートレールを実装することを最初から設計案件として盛り込めたのだという。

 こうした通常使用の使い勝手だけでなく、超高齢化社会に備えたお年寄りの行動の自由を担保するという点について考察と検証を重ねているのも特徴で、マスコミ向けの新商品発表会では大学と共同での研究についてわざわざ独立したプレゼンが行われたほどだった。

ウォークスルーも楽々で高齢者にもやさしいタント

ウォークスルーも楽々で高齢者にもやさしいタント

 新型タントはクルマに乗り込むためのサイドステップを装備できる。軽自動車はタントのような背高ワゴンでも床が低いのでそんなものは不要……と、普通はこう考える。筆者もそうだったのだが、鈴鹿医療科学大学との共同研究のなかで、実は高齢者にとっては、この高さでもステップがあるのとないのとでは、乗り込み性に大差があることがわかったという。

 運転する、助手席に乗る、後席に乗る──と、身体機能が弱まるにつれて、クルマでの外出は大変になっていくのだが、体が弱っても自分の自由意思で動き回れることが人生の幸福度を上げる。タントにはその一助になるためのものを可能な限り盛り込んだのだと、開発メンバーの一人は語っていた。

 パワートレインと車体を丸ごと新開発して性能を大幅に向上させ、使い勝手も徹底的に磨き込んだという第4世代タント。こう書くともはや敵なしの感があるが、実際はさにあらず。

関連キーワード

関連記事

トピックス

俳優の松田翔太、妻でモデルの秋元梢(右/時事通信フォト)
《松田龍平、翔太兄弟夫婦がタイでバカンス目撃撮》秋元梢が甥っ子を優しく見守り…ファミリーが交流した「初のフォーショット」
NEWSポストセブン
世界が驚嘆した大番狂わせ(写真/AFLO)
ラグビー日本代表「ブライトンの奇跡」から10年 名将エディー・ジョーンズが語る世界を驚かせた偉業と現状「リーチマイケルたちが取り戻した“日本の誇り”を引き継いでいく」
週刊ポスト
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《即完売》佳子さま、着用した2750円イヤリングのメーカーが当日の「トータルコーディネート」に感激
NEWSポストセブン
国連大学50周年記念式典に出席された天皇皇后両陛下(2025年9月18日、撮影/JMPA)
《国連大学50周年記念式典》皇后雅子さまが見せられたマスタードイエローの“サステナブルファッション” 沖縄ご訪問や園遊会でお召しの一着をお選びに 
NEWSポストセブン
豪雨被害のため、M-1出場を断念した森智広市長 (左/時事通信フォト、右/読者提供)
《森智広市長 M-1出場断念の舞台裏》「商店街の道の下から水がゴボゴボと…」三重・四日市を襲った記録的豪雨で地下駐車場が水没、高級車ふくむ274台が被害
NEWSポストセブン
「決意のSNS投稿」をした滝川クリステル(時事通信フォト)
滝川クリステル「決意のSNS投稿」に見る“ファーストレディ”への準備 小泉進次郎氏の「誹謗中傷について規制を強化する考え」を後押しする覚悟か
週刊ポスト
アニメではカバオくんなど複数のキャラクターの声を担当する山寺宏一(写真提供/NHK)
【『あんぱん』最終回へ】「声優生活40年のご褒美」山寺宏一が“やなせ先生の恩師役”を演じて感じた、ジャムおじさんとして「新しい顔だよ」と言える喜び
週刊ポスト
林家ペーさんと林家パー子さんの自宅で火災が起きていることがわかった
《部屋はエアコンなしで扇風機が5台》「仏壇のろうそくに火をつけようとして燃え広がった」林家ぺー&パー子夫妻が火災が起きた自宅で“質素な暮らし”
NEWSポストセブン
1年ほど前に、会社役員を務める元夫と離婚していたことを明かした
《ロックシンガー・相川七瀬 年上夫との離婚明かす》個人事務所役員の年上夫との別居生活1年「家族でいるために」昨夏に自ら離婚届を提出
NEWSポストセブン
“高市潰し”を狙っているように思える動きも(時事通信フォト)
《前代未聞の自民党総裁選》公明党や野党も“露骨な介入”「高市早苗総裁では連立は組めない」と“拒否権”をちらつかせる異例の事態に
週刊ポスト
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン