「オレオレ詐欺の出し子やら、薬物の売人やら、そうしたところから集められて、実際に駆り出されるわけですよ。よか女ば抱いて、よか車に乗って、毎晩焼肉やらコース料理ば食う生活、そげな(そんな)生活ばしたかなーって言うてくる訳です、若いもんが。じゃあ、お前なんでもできるよな、言うこと聞くよな、っていう流れでカタにハマる。ただ実際には、元部下がその仲間や後輩にやらせたりする訳で、結局足はつかんです。元部下は店を何軒か任されとって、月の利益の15から20%を上げよる(納めている)らしいですけど、彼らは暴力団じゃないけん、みかじめ料とは違うですよ。なんも知らんで済むでしょ」
半グレが顔出し取材に応じることは、当然リスクだらけだ。当局にマークされることは当たり前、SNSで逐一、自らの生活をひけらかそうものなら、それこそ検挙された際の「証拠」にもなり得る。なぜあえて、自らを「見せる」のか。
「本来、ヤクザもんだって出たがりが多いとですよ。でもまあ、表にバーンって出られるのは、そういう立場の人。自分は上に立って、派手にかっこよくやっとります、って宣伝して、部下やその下、もっと下に悪いことをやらせる。末端がパクられても、下がやったことで知らん訳です。暴力団は法律が厳しくなって、使用者責任とかで下から上までやられる(逮捕される)けどですね。半グレの親分は、暴力団じゃないけんね。派手にしとれば人はいくらでも寄ってくるでしょ」
筆者もNHKの放送は見ていた。放送後、SNSでは「××さんが出てた」などの書き込みが相次ぎ、当の出演者本人も自らのSNSに「NHKに出演させていただきました」と記すくらいだ。当人らにとっては、ほとんど「宣伝」だった、というのも本当なのかも知れない。
同じく、番組を見ていた民放関係者が言う。
「さすがNHKという構成で、半グレの実態を本気で探ろうとする姿勢が伺えました。私も同僚も、こんな奴らがいるんだと驚くばかりでしたが、あの放送を見て、彼らと知り合いになりたい、という若者がSNSにいるのを見て驚きました。放送をする側の意図が、そうした若者には全く伝わっていない」(民放関係者)
NHK側は、意図せずとはいえこうした「負の反響」が出ていることについてどう考えているのか。筆者の問い合わせに、NHK広報局は「実態についてありのままをお伝えしたものであり、特定の人物、団体を宣伝する意図は一切ない」と答えるのみだった。
改めていうが、渾身の取材であったことは言うまでもない。ほとんどの視聴者に「半グレの実態」をありのままに伝え、その恐ろしさを知らせることはできただろう。しかし、そうした取材や放送までも“利用”してしまう、半グレの若者たちの感覚を見落としてはいなかったか、とも思う。これを「価値観の違い」と片付けてはいられない。
あえていうなら、彼らのファッショナブルなシーン、若者受けする無鉄砲ぶりが際立つ構成がいけなかったのか。もっとダサく、恥ずかしいようなシーンを挿入していれば印象は変わったのだろうか。半グレの実態を報じる番組が、半グレを増長させ、半グレに憧れを抱く若者を作り出しているのだとしたら、これ以上の皮肉はない。