◆「手描き」にこだわる理由
『無彩限のファントム・ワールド』や『小林さんちのメイドラゴン』など、多くの作品で美術監督を務めた渡邊美希子さん(35才)は、真面目で気遣いを欠かさない人柄で誰からも慕われていた。
京アニが開設する「プロ養成塾」で講師を務めていた渡邊さんは、京アニが「手描き」にこだわる理由について、こう述べていた。
《手描きの背景画を教えているのは、その先に誰かを感動させる背景画がある事を知っているからです。一幅の絵画のようでありながら、生活そのものを描き切ってみせる、アニメーション背景ならではの感動がそこにあり、学ぶ価値があると、信じているからです》
京アニを愛し、自らの仕事に夢と希望と誇りを抱きながら、よき家庭人でもあった人たち。約束されたはずの未来が突然絶たれた無念さは筆舌に尽くしがたい。
京アニの「命」でもある美しい色彩表現の中核を担いながら犠牲になった石田奈央美さん(49才)の母親は、本誌の取材にこうつぶやいた。
「1か月経とうが、1年経とうが思いは変わりません。娘がいないという現実と気持ちの折り合いがつきません」
失われたものはあまりにも大きい。
※女性セブン2019年9月12日号