椎名声明は韓国国民の反日感情を和らげ、経済危機で窮地に陥っていた朴大統領を救い、基本条約締結を決定づけたとされる。
そうした経緯を安倍首相は、2015年に開かれた日韓国交正常化50周年記念式で「50年前の当時、私の祖父の岸信介や大叔父の佐藤栄作は、両国の国交正常化に深く関与しました」と総括している。
◆日韓政財界が「利益共同体」に
基本条約とそれに伴う日韓請求権協定が締結されると、日本から韓国に巨額の資金が流れ込む。
韓国が日本に戦後賠償を求めたのに対し、日本は当時の韓国の国家予算の2倍にあたる5億ドル(無償3億ドル、有償2億ドル)の経済協力を行なうことで合意した。そこには、「徴用工などへの個人補償」も含まれていた。
この補償金が日韓の政治利権へと化していく。日本からの経済協力は現金ではなく、日本政府が日本企業から車両や重機や工作機械などを買い上げて韓国に渡したり、日本企業がインフラや製鉄所などを現地に建設したりするというスキームだった。
商社やメーカーはこの資金で次々に韓国に進出する。援助を受けた韓国企業の中から財閥が生まれ、朝鮮戦争で打撃を受けた韓国経済は朴政権の下で「漢江(ハンガン)の奇跡」と呼ばれる成長を遂げていく。
援助物資を日本企業から買い付けるのは日本の政治家、韓国でどの企業に配分するかを決めるのは韓国の政治家であり、日韓の政界と財界は、国境をまたいだ“利益共同体”として結び付きを強めていく。