国内

振り込め詐欺で中国から強制送還された40代男の「わが転落人生」

借金がかさみ怪しい仕事にも手を出すようになった

借金がかさみ怪しい仕事にも手を出すようになった

 2019年春にタイで逮捕された日本人振り込め詐欺グループが強制送還されてきたとき、そのメンバーに明らかに中高年の姿があり、報じられた年齢には50代も含まれていたことに驚かされた。若者たちによる犯罪というイメージが強い振り込め詐欺だが、最近では、その構成員に中高年が増えている。若かった頃の失敗がきっかけで転落しはじめ、気付いたら振り込め詐欺に加わっていた40代男性の告白を、ライターの森鷹久氏が聞いた。

 * * *
 埼玉県南部のターミナル駅前。ジーパンにグレーのジャケット、ハンチング帽姿で筆者を待っていたのは、東京都内在住の野村逸男(仮名・40代)。主に生活保護を受給しながら社会復帰を目指す人々が暮らす福祉施設で生活をしている、とのことだったが、一見どこにでもいる中年のおじさんという風体。しかし、よく見るとジーパンはところどこにシミがあり、ハンチングは擦り切れ裏地が露出してしまっている。爪は長いこと切られていないために長く、真っ黒な垢がこびりついている。「どうも」と笑ってみせるが、前歯もほとんどない。この男が「特殊詐欺実行グループ」と言われれば、誰が信じるだろうか。

「あんまし悪く書かんといてくださいよ…」

 和歌山県出身の野村は地元の高校を卒業後、大阪市内の金物問屋に就職したが、そこで知り合った運送業者の勧めで、間も無く業務委託型の個人運送業者を始めた。野村がまだ夢を持ち、生き生きと輝いていた20代半ばのことである。運送業は楽ではなかったが、走れば走る分手持ちの金は増えた。月収は50万円ほどあったが、単身だったためそのほとんどが宵越しの金に消える。しかしそれでも若かったために、がむしゃらに働き、それなりの幸せも手に入れた。

「結婚は28才ですわ。子供出来てしもうたからすぐ結婚です。こう見えて、郊外の方ですけど、家まで建てました、30代前半です。もっと稼がにゃいうてあんなことやらなんだら、少しはまともな人生送れとったんちゃうかって、今でも思うんです」

 ささやかながら戸建まで持ち、ますます仕事に力を入れた野村だったが、その方向がまずかった。個人運送屋の車を使い、帳簿に乗らない運送を繰り返していたところ、商店に突っ込むという物損事故を起こしたのである。幸い人を傷つけてはいないものの、いわゆる「闇仕事」であったため、保険の類は一切効かない。一国一城の主となりわずか半年ほどでの悲劇により、野村は無職になり、3000万円の自宅ローンと、建物の原状回復費に営業補償など事故処理費用1500万円を背負うことになった。そこからは絵に描いたような転落人生である。

「ローンが払えなくなって、街金で借りて、たまに仕事して少し返して…。当然ヤミ金にも手を出しましたが、その頃には嫁は子供連れて出て行ってしまった。自宅も(借金のカタで)取られてもうて、親に土下座して実家の土地と建物まで担保に入れとったから、そっちまでやられて(とられて)ね。一族バラバラ、もう自暴自棄ですわ。それからヤミ金さんに言われて、全国の廃棄物処理場をグルグル回って仕事したりしてね。いわゆる飯場ですよ。借金もいくらあるか全然わからんし、毎月いくら返せば良いのかもわからん。考えるのをやめたんです。こうなると、とにかく生きてさえおればよいと、こうなるんですよ」

関連キーワード

関連記事

トピックス

野生のヒグマの恐怖を対峙したハンターが語った(左の写真はサンプルです)
「奴らは6発撃っても死なない」「猟犬もビクビクと震え上がった」クレームを入れる人が知らない“北海道のヒグマの恐ろしさ”《対峙したハンターが語る熊恐怖体験》
NEWSポストセブン
川道さら
【「今日好き」で大ブレイク】20歳を迎えた川道さらが語った仕事への思い「お酒で体重増えたから毎日9~10㎞走っています」
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘に関する訴訟があった(共同通信)
「オオタニは代理人を盾に…」黒塗りの訴状に記された“大谷翔平ビジネスのリアル”…ハワイ25億円別荘の訴訟騒動、前々からあった“不吉な予兆”
NEWSポストセブン
話題を集めた佳子さま着用の水玉ワンピース(写真/共同通信社)
《夏らしくてとても爽やかとSNSで絶賛》佳子さま“何年も同じ水玉ワンピースを着回し”で体現する「皇室の伝統的な精神」
週刊ポスト
ヒグマの親子のイメージ(時事通信)
《駆除個体は名物熊“岩尾別の母さん”》地元で評判の「大人しいクマ」が人を襲ったワケ「現場は“アリの巣が沢山出来る”ヒヤリハット地点だった」【羅臼岳ヒグマ死亡事故】
NEWSポストセブン
決勝の相手は智弁和歌山。奇しくも当時のキャプテンは中谷仁で、現在、母校の監督をしている点でも両者は共通する
1997年夏の甲子園で820球を投げた平安・川口知哉 プロ入り後の不調について「あの夏の代償はまったくなかった。自分に実力がなかっただけ」
週刊ポスト
真美子さんが信頼を寄せる大谷翔平の代理人・ネズ・バレロ氏(時事通信)
《“訴訟でモヤモヤ”の真美子さん》スゴ腕代理人・バレロ氏に寄せる“全幅の信頼”「スイートルームにも家族で同伴」【大谷翔平のハワイ別荘訴訟騒動】
NEWSポストセブン
中居正広氏の騒動はどこに帰着するのか
《中居正広氏のトラブル事案はなぜ刑事事件にならないのか》示談内容に「刑事告訴しない」条項が盛り込まれている可能性も 示談破棄なら状況変化も
週刊ポスト
離婚を発表した加藤ローサと松井大輔(右/Instagramより)
「ママがやってよ」が嫌いな言葉…加藤ローサ(40)、夫・松井大輔氏(44)に尽くし続けた背景に母が伝えていた“人生失敗の3大要素”
NEWSポストセブン
ヒグマの親子のイメージ(時事通信)
【観光客が熊に餌を…】羅臼岳クマ事故でべテランハンターが指摘する“過酷すぎる駆除活動”「日当8000円、労災もなし、人のためでも限界」
NEWSポストセブン
2013年に結婚した北島康介と音楽ユニット「girl next door」の千紗
《金メダリスト・北島康介に不倫報道》「店内でも暗黙のウワサに…」 “小芝風花似”ホステスと逢瀬を重ねた“銀座の高級老舗クラブ”の正体「超一流が集まるお堅い店」
NEWSポストセブン
夏レジャーを普通に楽しんでほしいのが地域住民の願い(イメージ)
《各地の海辺が”行為”のための出会いの場に》近隣住民「男性同士で雑木林を分け行って…」 「本当に困ってんの、こっちは」ドローンで盗撮しようとする悪趣味な人たちも出現
NEWSポストセブン