◆新浪がローソンでやってきたこと
三菱商事在籍中にハーバード大学ビジネススクールを卒業した新浪がコンビニのローソン社長に就任したのは2001年のこと。当時、経営が悪化したダイエーに代わってローソンの筆頭株主になった三菱商事が、ローソンとの取引窓口だった新浪を社長に抜擢したのだ。
「3年で結果を出せ」──。当時、三菱商事社長であった佐々木幹夫が新浪に与えた宿題だ。弱冠、43歳という若さでローソンの社長に就いた新浪を、マスコミは放っておくはずがない。大企業の安全地帯からコンビニに飛び込んだ新浪を「コンビニ業界の風雲児」と呼んだ。
ローソンでは首位を独走するセブン-イレブン・ジャパンを追いつき、追い越せを目標に走り出した。象徴的なのは2002年11月に発表した新ブランド「おにぎり屋」だ。高級なおにぎりというイメージを定着させることに成功し、利用者をして「おにぎりといえばローソン」と認知されるまでになった。1年間に6億5000万個を売る大ヒット商品となった。
コンビニの特性の一つに、どの店でも同等のサービスを受けられるという均質性がある。新浪はその逆の多様性を追求した。生鮮食品を品揃えした「ローソンストア100」、健康志向を扱う「ナチュラルローソン」、小型スーパーの「ローソンマート」は、新浪の多様性の追求から生まれた、手づくりの“作品”である。
だが、理想と現実は違う。食品スーパーとの競争に敗れ、次々と閉鎖に追い込まれた。「ローソンストア100」は新浪の“聖地”だったから、新浪がローソンを去って初めて、玉塚元一社長(当時)が閉鎖を決めた。
中国で1万店出店という大風呂敷を広げたが、これも空振り。7年たった現在2000店にとどまり、1万店など夢のまた夢である。
◆サントリーでは安倍政権べったりの「二足の草鞋」
そんな新浪が突如ローソンを去り、サントリーHD社長に就任したのは2014年10月。買収した米蒸留酒大手ビーム(現・ビームサントリー)の経営を軌道に乗せるため、創業家出身の佐治信忠会長から「一緒にやろう」とお呼びが掛かったのだ。ジムビームの買収金額は1兆6000億円。サントリーとしては過去最大の買収案件である。
新たに誕生したビームサントリーを1兆円企業に成長させ、グループ全体の年商を4兆円に引き上げること──これが新浪に課せられた経営課題だった。
だが、新浪は2014年9月の第2次安倍内閣改造内閣から、新浪は経済財政諮問会議のメンバーを務めている。“財界総理”に譬えられることがなくなった経団連会長のような、経営の第一線を退いた人物が座るポストだ。現役パリパリの経営者が二足の草鞋を履くのには無理がある。
事実、社長就任当初、2020年に売上高4兆円という目標を立てていたが、サントリーHDの2018年12月期の売上高は2.5兆円。逆立ちしても目標には届かない。