だから、かなりの確信をもって言えるんだけど、遼佑さんはことさら、悠介容疑者になついているそぶりを見せて、母親を安心させたのではないかしら。そして、女の母親はうすうす何かを感じても、自分の明日のためにあえて見逃したのではないか。
とはいえ、義父と2人きりになると、どうにもギクシャクする。子供の頃から、「言いたい放題」と言われた私だって、言葉ひとつ、仕草ひとつ、義父の顔色を見ながらしていたもの。
それがうまくいっているうちはいいけれど、そこは子供。内心思っていることが表に出ちゃう時があるのよ。
私の場合は、義父の無学がイヤだった。新聞は読まず、大人の男と話すのが苦手で、気に入らないことがあると部屋の隅で突っ伏しているか、家族を怒鳴るか。そんな義父を私は心の底からバカにした。
シングルマザーと再婚した義父の立場になれば、たまったもんじゃなかったと思う。目の前にいるのは妻と連れ子だけど、実はもう1人いるんだもの。どこに? 連れ子の姿形、口ぶりの中に。
ひと口に9才といってもいろいろだけど、私のように否応なく大人の事情の中で揉まれたら、大人の痛いところは瞬時に見抜くわよ。
私が遼佑さんなら、悠介容疑者がもっとも言われたくない、「働いていないくせに」と間違いなく言ったと思う。
でも自分の身の安全を考えて、2人きりの時ではなく、母親の前で。いや、遼佑さんは母親を追い詰めたくなかったから、若い義父と2人きりの時に言ったのかも。
もちろん実の親子だからといってうまくいくとは限らないよ。