歌舞伎界随一の名門である成田屋の宗主が一般家庭の子供を「歌舞伎の未来」と何度も紹介するのは極めて異例である。だが最近は冒頭のように「異変」が囁かれていた。
「全歌舞伎俳優の名前が記載される『歌舞伎俳優出演劇場一覧』は毎月更新されるものですが、Aくんの名前が10月に消えたのです。数年間舞台に出ない俳優でも、休演扱いで名前は掲載されるので、“Aくんは歌舞伎役者を廃業したのではないか”ともっぱらの噂です」(歌舞伎関係者)
◆一般家庭の子でもやる気があれば受け入れたい
今回の騒動の背景に、歌舞伎界独特の育成システムを指摘する声もある。前述の通り、一般家庭の子供が歌舞伎界に入るには「研修」と「直接弟子入り」という2通りの方法がある。
大物俳優にコネのない者は研修を終えてから各部屋に弟子入りして、歌舞伎役者としてのキャリアをスタートさせる。こうした役者は業界で「三階さん」と呼ばれる。
「三階さんの多くは役名もなければせりふもない端役で、正式には『名題下』といわれる俳優の一部です。昔、控室が大部屋で、舞台からいちばん遠い三階にあったことから、そう呼ばれるようになりました」(前出・歌舞伎関係者)
彼らは主役を引き立たせるために舞台で宙返りをしたり、高所から飛び降りるなど、体を張った演技を見せる。
「それでも給料は安く、月収は20万円に満たないとされます。三階さんがいなければ舞台が成り立たないのに、梨園の御曹司や幹部俳優に目をかけられた若手の待遇とは雲泥の差がある。
このため最近は将来に絶望した三階さんの廃業が相次ぎ、歌舞伎界の人手不足が深刻化しています」(前出・歌舞伎関係者)
2018年3月には歌舞伎の名門「高麗屋」の松本白鸚(77才)がハレの舞台である襲名披露公演中に《歌舞伎俳優見習い募集》を行い、「そこまでなり手がいないのか」と関係者に衝撃が走った。
こうした危機に「改革」を唱えたのが、ほかならぬ海老蔵だった。
「海老蔵さんは、歌舞伎界の働き方改革を進めたり、現代劇に近い演目を上演し、若い観客を集めたりと、業界の改革に積極的です。人材育成に関しても“歌舞伎の発展には脇を固める役者の力が必要不可欠”との考えで、歌舞伎役者の待遇改善に乗り出しています。例えばよそを辞めたお弟子さんを拾ったり、違う家の役者さんを自分の舞台で積極的に活用しているんです。
一般家庭のAくんをブログを通じて採用したのも、“やる気があれば誰でも受け入れる”という彼の意思表示だと、歌舞伎界は受け止め、感銘を受けた人は多かった」(前出・歌舞伎関係者)