ライフ

【山内昌之氏書評】英国の失敗は“明日は我が身”との教示

『イギリスの失敗 「合意なき離脱」のリスク』岡部伸・著

【書評】『イギリスの失敗 「合意なき離脱」のリスク』/岡部伸・著/PHP新書/920円+税
【評者】山内昌之(武蔵野大学特任教授)

 英国のEU離脱の最終決着は、年末の総選挙に持ち込まれることになった。ボリス・ジョンソン首相の政治力であろう。本書は、2016年の国民投票以来、社会分裂が進み、英国政治に不必要な混乱を増したEU離脱問題の背景と要因を分析している。

 筆者のインタビューや政治家の肉声を交えている部分は出色だ。なかでもEU離脱だけを政治目標に掲げたポピュリズム政党のファラージの言説は興味深い。批判はしても対案はないという日本の旧野党に似ているようだが、度胸が据わっている分すごいのだ。とにかく離脱すれば、所得格差も解消されEU官僚の忌々しい指図に従わなくてもよいという英国人の感情は、ファラージ人気を押し上げる原動力になった。

 ファラージは英国の利益を優先する英国第一主義を掲げながら、その実現に汗をかかなかった。首相になって離脱実現に汗をかけばと問いを向けると、その気はない、自分は自由でいたいと無責任な評論家じみた発言を繰り返す。トランプ大統領の方が修羅場に出ていく覚悟がある分だけましだろう。

 気がかりなのは、せっかく下火になったアイルランド紛争が再燃することだ。EU離脱のせいで国境検問が復活すると、北アイルランドで20年間沈静していたテロや闘争も復活しかねない。筆者は、かつてテロに従事していた人々の取材を通して、北アイルランドではプロテスタント系住民とカトリック系住民との融合が進んでいない事実を確認している。

関連キーワード

関連記事

トピックス

競泳コメンテーターとして活躍する岩崎恭子
《五輪の競泳中継から消えた元金メダリスト》岩崎恭子“金髪カツラ”不倫報道でNHKでの仕事が激減も見えてきた「復活の兆し」
NEWSポストセブン
米・フロリダ州で元看護師の女による血の繋がっていない息子に対する性的虐待事件が起きた(Facebookより)
「15歳の連れ子」を誘惑して性交した米国の元看護師の女の犯行 「ホラー映画を見ながら大麻成分を吸引して…」夫が帰宅時に見た最悪の光景とは《フルメイク&黒タートルで出廷》
NEWSポストセブン
メーカーではなく地域の販売会社幹部からの指令だった(写真提供/イメージマート)
《上司命令でSNSへ動画投稿》部下たちから上がる”悲鳴” 住宅販売会社では社長の意向で「ビキニで物件紹介」させられた女性社員も
NEWSポストセブン
自宅への家宅捜索が報じられた米倉(時事通信)
米倉涼子“ガサ入れ報道”の背景に「麻薬取締部の長く続く捜査」 社会部記者は「米倉さんはマトリからの調べに誠実に対応している」
香川県を訪問された紀子さまと佳子さま(2025年10月2日、撮影/JMPA)
佳子さまが着用した「涼しげな夏振袖」に込められた「母娘、姉妹の絆」 紀子さま、眞子さんのお印が描かれていた
NEWSポストセブン
米倉涼子(時事通信フォト)
《マトリが捜査》米倉涼子に“違法薬物ガサ入れ”報道 かつて体調不良時にはSNSに「ごめんなさい、ごめんなさい、本当にごめんなさい」…米倉の身に起きていた“異変”
NEWSポストセブン
きしたかの・高野正成(高野のXより)
《オファー続々》『水ダウ』“ほぼレギュラー“きしたかの・高野 「怒っているけど、実はいい人」で突出した業界人気を獲得 
NEWSポストセブン
迎賓施設「松下真々庵」を訪問された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月9日、撮影/JMPA)
《京都ご訪問で注目》佳子さま、身につけた“西陣織バレッタ”は売り切れに クラシカルな赤いワンピースで魅せた“和洋折衷スタイル”
NEWSポストセブン
米倉涼子(時事通信フォト)
《米倉涼子に“麻薬取締部ガサ入れ”報道》半同棲していた恋人・アルゼンチン人ダンサーは海外に…“諸事情により帰国が延期” 米倉の仕事キャンセル事情の背景を知りうるキーマン
NEWSポストセブン
イギリス人女性2人のスーツケースから合計35kg以上の大麻が見つかり逮捕された(バニスター被告のInstagramより)
《金髪美女コンビがNYからイギリスに大麻35kg密輸》有罪判決後も会員制サイトで過激コンテンツを販売し大炎上、被告らは「私たちの友情は揺るがないわ」
NEWSポストセブン
第79回国民スポーツ大会の閉会式に出席された秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
「なんでこれにしたの?」秋篠宮家・佳子さまの“クッキリ服”にネット上で“心配する声”が強まる【国スポで滋賀県ご訪問】
NEWSポストセブン
"殺人グマ”による惨劇が起こってしまった(時事通信フォト)
「頭皮が食われ、頭蓋骨が露出した状態」「遺体のそばで『ウウー』と唸り声」殺人グマが起こした”バラバラ遺体“の惨劇、行政は「”特異な個体”の可能性も視野」《岩手県北上市》
NEWSポストセブン