とんねるず・石橋貴明の「タカさんチェック!」と言われても、みちょぱは知らなかった(時事通信フォト)
また、スタジオでVTRを見ながら厳しいコメントをするという形式はリポーター役の石橋と相性が悪い。たとえば、登場人物を紹介していくシーン。石橋がイジるのは見た目といったあくまで表面的な部分だ。筋骨隆々なら「ハルク」、YouTuberヒカキンに似ていたら「ヒカキン」と呼ぶ。『ねるとん』時代は、その程度の見立てで成り立っていたのだろう。時の流れは残酷だ、山里の批評に慣れ親しんだ今となっては石橋のコメントが薄味に感じられる。
以前、オードリーの若林正恭は「(自分は)番組を盛り上げるパーツの一つとして機能することを心がけている」と話していた。アンガールズの田中卓も同様のことを語っていた。今売れている芸人のあり方を象徴する言葉だと思う。一人で笑いを取ることよりもチームプレイが好まれる。また、視聴者と同じ目線でいることも重要だ。現在の芸人の持ち味は「共感」にある。
対して、石橋はその真逆を突き進んできた芸人。自分が楽しいことを企画に落とし込んだ華やかで東京らしい笑いを売ってきた。石橋の立ち位置は視聴者よりも常に高く、「憧れ」の存在。よって「集団お見合いパーティー」の参加者よりも自分が主役となってしまう。『ねるとん』時代は、この方法論で成立していたのだろう(石橋の人気も今と比べものにならなかったはずだし)。
ただ『恋する沖縄48時間』は恋愛リアリティショーである。石橋の解説や主張が強いほど「結婚」という目標へのピントもボヤけてくる。そこで浮かび上がってきたのは、恋愛リアリティショーブームに乗ってみたものの、石橋の手法はアップデートできていなかったという現実だった。
しかし、このような問題の元凶はパロディに振り切れていない点にある。そう断言したい。「『恋する沖縄48時間』は恋愛リアリティショーのパロディです!」と石橋とスタッフが言い切ることが出来れば、丸く収まっていたはずだ。
そもそも、とんねるずほどパロディに取り組んできたコンビもいない。『とんねるずのみなさんのおかげです』とその後継番組『とんねるずのみなさんのおかげでした』(ともにフジテレビ系)のコントは人気ドラマを、「雨の西麻布」では演歌を、音楽グループ「野猿」も元はKinKi Kidsのパロディである。対象を換骨奪胎し、笑いを築き上げてきた。『恋する沖縄48時間』には前述の『みなさんのおかげ~』シリーズに関わっていたスタッフも多い。
30年以上続いた『みなさんのおかげ~』シリーズだが、最もパロディにしてきたのがテレビ業界である。石橋は「ギョーカイ」なるものを啓蒙し、若者を心酔させてきた。そして、テレビ業界の内輪ネタが及ぶ範囲を拡大していった。『ねるとん』も元をたどれば、「とんねるず」の「とん」と「ねる」を入れ替えたギョーカイ用語である。
1980年代後半に栄えた「ギョーカイ」も年を経るごとに枯れていく。今ではもう、石橋率いるスタッフ以外で「ギョーカイ」の匂いを漂わせるバラエティを作るグループはいない。しかし、このグループももう長くないかも……。
そう考えるキッカケとなったのが、VTRパートの作り込みの緩さ。石橋が決め台詞「サーターアンダギー!」を叫ぼうともテロップが出ない。過去、石橋が担当してきた『とんねるずのみなさんのおかげです』や『うたばん』(TBS系)では決め台詞に必ず凝ったテロップが添えられていた。ロゴの配置、キャプション、テロップ、画面の構成が豪華だった。それを知っているだけに画面が寂しく感じる。「もしや! と昔の『ねるとん』をオマージュしているのかな」とも考え、動画をチェックしてみたが字体を真似ていたわけでもない。よって、『恋する沖縄48時間』のVTRはただただ簡素な仕様なのだろう。スタジオパートには頻繁にテロップが入るため、VTRと作り込みの差をより感じてしまった。とはいっても、スタジオも簡素である。セットは机と椅子のみ、背景はホワイトバックだ。「ギョーカイ」の華やかさとはかけ離れている。
そして、新鮮さと勢いに欠ける企画も気になった。『恋する沖縄48時間』は企画立案していった流れが安易に想像できる番組だ。会議室で最初に出た話題は「最近、恋愛リアリティショーが流行っているらしい」だろう。そして「だったら『ねるとん』を元祖恋愛リアリティショーと言って復活させよう」と続く。最後に「『バチェラー』の結婚、『テラスハウス』の山ちゃんの毒舌も盛り込もう!」と盛り上がり完成した企画書である。そういった安易な考えが画面から漏れ伝わってきた。
とんねるずに憧れた世代は石橋のノリさえあれば良いのかも知れない。ただ、僕のような神聖化をしていない世代にとってはただのスキが多い番組でしかない。結果、最後の告白パートも盛り上がらず終わった。本気になればなるほど滑稽に見えてしまう可笑しみはある。バラエティ要素に特化したユニークな告白もある。しかし、「真剣さ」と「笑い」がどちらに傾くこともない告白ではカタルシスは起きない。
この調子でいくと『石橋貴明プレミアム』の終了も近い気がする……。
●ヨシムラヒロム/1986年生まれ、東京出身。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。イラストレーター、コラムニスト、中野区観光大使。五反田のコワーキングスペースpaoで月一回開かれるイベント「微学校」の校長としても活動中。著書に『美大生図鑑』(飛鳥新社)